片岡:全部ダメでもなくて、「血管が切れたから治療する」みたいな病気とは違う。
園田:部下が早く指摘してくれていればとも思うけど、難しいんだろうな。
広い敷地の工場での仕事の時にこんなことがありました。現場事務所から車で打ち合わせに出て、終わった後、車で来たことを忘れて、キーをポケットに入れたまま歩いて事務所に戻ってしまう。
で、次の打ち合わせにまた別の車で乗って行っちゃう。で、また忘れて戻ってきちゃう。事務所で「誰だ、ほうぼうに車を置いてきたのは!」という話になって自分のポケットを見たらキーが2つある。参りましたよ(笑い)。
奥澤:私の場合、お二人とはちょっと違います。普通は認知症と宣告されて「地獄の底に真っ逆さま」という心境の人が多いと思いますが、私は告知の瞬間、ホッとしたんですよ。
〈奥澤さんは定年まで朝6時に家を出て深夜3時に帰宅する、石油製品営業の「企業戦士」だった。退職後に始めた事業に失敗、2年で数千万円の借金を抱えて重度のうつになった。それが認知症の遠因になったと振り返る〉
奥澤:6年ほど前のことです。コンビニでタバコを一箱買いました。当然、お金を払うわけですね。ところが不思議なことに、レジの前に陳列してある同じ銘柄のタバコをもう一箱取って、ポケットへ入れてしまう。それで、当然のように店を出ようとして、捕まるんですね。
警察に突き出されて、家族が引き取りに来る。そんなことを3か月で3回もやったんですよ。全く同じことを。記憶は抜けているんだけど、警察で酷い扱いを受けたのになんで繰り返すのか、自分でも理解できなかった。3回目に警察から「病院で診てもらったほうがいい」と言われました。
園田:そういうのもあるんですね。
奥澤:お二人はアルツハイマー型だけど、私は「前頭側頭型(※注2)」なんです。(認知症患者全体の)6%くらいしかないといわれています。
【※注2/脳の前頭葉、側頭葉に異常タンパク質が蓄積されることが原因で起きる認知症。赤信号をわたるなど「ゴーイングマイウェイ型」の行動で警察沙汰になることもある】
症状としては判断力の低下と、もう一つがなんて言ったっけ……忘れたんですが、万引きみたいな反社会的行動をしてしまう症状がある(注・専門用語では「脱抑制」という)。告知を受けて病気のせいだったとわかって、ちょっとホッとしたわけです。
※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号