1990年代以降、日本の食費支出は減少傾向にあり、外食費は停滞を示すなか、惣菜など家庭外で調理されたものを自宅で食べる「中食」だけが増加し続けている。2014年の惣菜市場規模をみると推計9兆1081億円にのぼり、来月発表される確定値もほぼ同様の規模になると見込まれている(日本惣菜協会調べ)。中食市場の販売場所はデパ地下や惣菜店だけでなく、コンビニに通販、ついにオフィスにも進出し多チャンネル化し成長を続けている。
伸長する中食のなかで、最近特徴的なのは、売られている場所の多様化、多チャンネル化だ。オフィスのなかでの販売はニーズが大きく、たとえば株式会社おかんが展開する「オフィスおかん」は東京23区内のサービスだったにもかかわらず、2016年3月時点で前年比320%の成長を遂げ、サービス提供先は累計で約300拠点にのぼる。4月からは千葉県の市川・浦安エリアでの提供も始まっている。
ぷち社食サービスとして提供されている「オフィスおかん」は、オフィスに置かれている冷蔵庫に惣菜類が保存されており、それを利用するごとに社員は1品100円程度を支払う仕組み。この価格は、会社がサービス提供のための固定費を支払うことで実現している。
「実際には社内で食べるだけでなく、自宅に買って帰り食卓に追加するもう一品として活用されている方も多いです。惣菜をそのまま、ではなく様々にアレンジして食卓に並べているという情報も寄せられています。社食としてだけでなく、惣菜店代わりのような利用をされているのだと知り、驚きました。
惣菜の中食市場にもラストワンマイルのニーズがあります。かつて惣菜は、デパ地下や専門店で買うものでした。その後、より身近なスーパーマーケットで買うことが普通に、さらに24時間いつでも買えるコンビニ、自宅まで運んでくれる通販に広がりました。そして、仕事に忙しい人が増え家での滞在時間が減り、オフィスで過ごす時間が増えているいま、消費者により近いところでの販売場所としてオフィスが増えています」(株式会社おかん・沢木恵太代表取締役CEO)
オフィスおかん以外にも、オフィスで総菜類を購入できるサービスが増えている。ファミリーマートの「自販機コンビニ」では飲料やお菓子だけでなくお弁当やデザート、日用品までそろっている。有機野菜のデリバリーで知られるOisix(オイシックス)では「サラダオフィスデリバリー」という法人向けにサラダを届けるサービスを提供している。
約40年前、1975年当時は外食や総菜など、家庭の外の調理や食事に頼る食の外部化率は28.4%で、レストランなどでの食事が占める外食率は27.8%と、食の外部化=外食だった。惣菜などをあらわす「中食」という言葉もなかった。それから40年、食の外部化率は44.7%になった。内訳をみると外食率は35.6%で、その差である約10%を中食が担っている(食の安心安全財団調べ)。いまや日本人の食の約1割を中食が構成している。
不健康、まずいなど悪いイメージがつきまといがちな中食だが、今では添加物をおさえ健康に配慮した味付け、技術の発達により食感も含め美味しいものが増えている。日本の食卓は家庭が基本と訴える人もいるが、江戸時代はほとんどが外食や振り売りの惣菜で成り立っていた。労働力が足りず働く時間が長くなっている今、美味しくて健康的な惣菜、中食のニーズが高まるのは必然といえそうだ。