月刊誌『文藝春秋』(5月号)の名物コラム「丸の内コンフィデンシャル」で報じられた三井物産と住友商事の“合併情報”──。実現するなら旧財閥の壁を越えた業界大再編となる仰天話だが、意外なことに、名前の挙がった両社の中には“あり得ない話ではない”と受け止める社員が少なくなかった。
コラムが説得力を持ったのは、利益に占める資源ビジネスの割合が9割だった物産と、ジュピターテレコム(JCOM)など非資源分野からの利益が8割に上る住商が、「WIN-WINの組み合わせ」(40代三井物産社員)だからだ。
仮に両社が合併すれば、長く業界トップを走ってきた三菱商事も、非資源分野の成功で躍進した伊藤忠も凌ぐ巨大総合商社の誕生となる。
もっともビジネス環境を見渡せば、「総合商社の統合」のハードルは低くなっている。業界関係者が語る。
「商社以外の業界で再編が進んだことの意味は大きい。たとえば、かつて住商は同じ住友グループの住友金属から独占的に商品を卸していた。一方、三井物産は新日本製鐵のほぼ独占的な卸問屋の役割を果たしていた。その時代に商社サイドの合併話が浮上していたら、双方の取引先から“ふざけるな”とクレームが入ったでしょう。
しかし、住友金属と新日本製鐵は経営統合し、新日鐵住金になった。鉄鋼業界に限らず取引先となる業界の再編が進んだことで、商社統合の抵抗感は薄れてきたといえます」
三菱商事出身の経済評論家・山崎元氏も今後の商社再編はあり得ると考える。
「大手総合商社が三菱、物産、住商、伊藤忠、丸紅の5社というのは多すぎる。海外の巨大プロジェクト落札を競う時なども、結局ファイナンスするのはメガ3行とJBIC(国際協力銀行)。商社5社が値段を叩き合うのは無駄でしょう」
すでに、部門ごとでは合従連衡の動きがある。伊藤忠と丸紅は2001年、鉄鋼製品部門をそれぞれ分社して統合し、「伊藤忠丸紅鉄鋼」が発足。2003年には三菱商事と日商岩井(現・双日)の鉄鋼部門を統合した「メタルワン」が設立されている。
携帯電話販売国内最大手の「ティーガイア」は2008年、物産の子会社と、三菱・住商の合弁会社の対等合併によって生まれた会社だ。
「同じような部門単位の統合は今後もあるでしょうし、子会社同士の合併から本体に波及することもないとは言えません」(同前)
厳しい冬を迎えた総合商社の「新時代」の姿は、想像のつかないものになっている。
※週刊ポスト2016年4月29日号