ライフ

作家・末井昭氏「下流老人の生活を楽しめばいいんです」

末井昭氏は飄々と生きている

 老老介護、老人施設殺人事件、徘徊老人。新聞や雑誌で、やたらと「老人」が付された見出しを目にする。「団塊世代」が70歳に届こうとする今、65歳以上人口は3000万人超。日本の国力低下が嘆かれ、国の4人に1人を占める彼らの境遇に影がさすのも無理はない。懐事情の改善は望めないだろう。

 でも、価値観なら変えられるのではないか。そんな問題意識のもと、元編集者で、作家・末井昭氏(67)に尋ねた。借金は4000万円以上、子供もいない。でも、飄々と生きている。一体どうしてですか?(聞き手/ノンフィクションライター・山川徹)

 * * *
 老後が、暗い。そんな印象を決定づけたのが昨年刊行されて20万部を超えるベストセラーとなった『下流老人』だ。著者でNPO法人ほっとプラス代表の藤田孝典氏は〈生活保護を受ける基準となる金額で暮らす高齢者及び、その恐れがある高齢者〉と定義する。いずれは高齢者の9割が下流になる危険性もあるらしい。

 私には91歳の祖母の介護に追われる70歳近い両親がいる。当人たちは「大丈夫」と強がるが、離れて暮らす30代の私は家族のこれからを思うと暗澹たる気持ちになる。

 私の憂慮を聞き終えると、末井昭さんは事も無げに応えた。

「想像力が豊かすぎるから不安を感じているんですよ。みんな明日のこと、明後日のことばかり考えているでしょう。その日のことだけ考えて生きていけば何も怖くないんじゃないですか」

 末井さんに「下流老人」について聞きたいと思ったのは、自らの半生と自殺への想いを綴り、講談社エッセイ賞を受賞した著書『自殺』で次のように書いていたからだ。

〈自殺というとどうしても暗くなりがちです。だから余計にみんな目をそむけてしまいます。自殺のことから逸脱したところも多分にあると思いますが、笑える自殺の本にしよう、そのほうがみんな自殺に関心を持ってくれる、と思いながら書きました〉

 そう。笑える老後。いや、下流老人だけじゃない。ワーキングプア、貧困女子、無縁社会。暗いイメージを孕む言葉ばかりが広まっている。だからこそ、末井さんのような視点で社会を眺める必要があるのではないか。

 私の身近にも熟年離婚がきっかけでホームレスになってしまった高齢者がいる。5年前のある日、行きつけのバーが突然閉店した。60代半ばのマスターが奥さんに離婚を切り出されて自宅と店から閉め出されてしまったのだ。

 当初は常連客の家を転々としたが、半年足らずで路上に転落。現在は生活保護を受給して都営アパートで暮らしている。

 あっという間に「収入」も「貯蓄」も、そして「信頼する人」も失って「下流老人」になってしまった。

 いまホームレスからは脱したとはいえ、バーテンダー時代を知っている私はどうしても気の毒に思ってしまう。かといってできることは限られている。歯がゆい気持ちはある。

 でも、末井さんの次の言葉を耳にした時、自分の「思い込み」かもしれないとも考えが及ぶ。

「いま住む場所があるなら、その状況を楽しめばいいんです。あとは、ダウンサイジング。時間があるわけだから図書館で読書を楽しむとか。お金を使わずにスーパーの半額セールを狙うとか。シルバー割引で映画を観るとか。あちこちの大学の学食の安い定食を食べ歩くとか……。そういう趣味を持てばその状態を楽しめるはず。惨めと思うか。楽しいと思えるかで、本人の生活や気持ちの充足は大きく違うのではないですか」

関連キーワード

関連記事

トピックス

電撃の芸能界引退を発表した西内まりや(時事通信)
《西内まりやが電撃引退》身内にトラブルが発覚…モデルを務める姉のSNSに“不穏な異変”「一緒に映っている写真が…」
NEWSポストセブン
山本アナは2016年にTBSに入局。現在は『報道特集』のメインキャスターを務める(TBSホームページより)
《TBS夜の顔・山本恵里伽アナが真剣交際》同棲パートナーは“料理人経験あり”の広報マン「とても大切な存在です」「家事全般、分担しながらやっています」
NEWSポストセブン
入院された上皇さまの付き添いをする美智子さま(2024年3月、長野県軽井沢町。撮影/JMPA)
美智子さま、入院された上皇さまのために連日300分近い長時間の付き添い 並大抵ではない“支える”という一念、雅子さまへと受け継がれる“一途な愛”
女性セブン
交際が伝えられていた元乃木坂46・白石麻衣(32)とtimelesz・菊池風磨(30)
《“結婚は5年封印”受け入れる献身》白石麻衣、菊池風磨の自宅マンションに「黒ずくめ変装」の通い愛、「子供好き」な本人が胸に秘めた思い
NEWSポストセブン
太田房江氏
【独占スクープ】自民党参院副幹事長・太田房江氏に浮上した“選挙買収”工作疑惑 元市議会議長が「500万円出すと言われた」と証言 太田氏は取材に「全くの虚偽」と全面否定
NEWSポストセブン
西内まりやがSNSで芸能界引退を発表した(Aflo)
《西内まりやが芸能界引退へ》「自分らしい人生を見つけていきたい」理由のひとつに「今年になって身内がトラブルを起こしていることが発覚」【自身のインスタで発表】
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《フジテレビ第三者委に反論》中居正広氏の心中に渦巻く“第三者委員会への不信感” 「最初から“悪者扱い”されているように感じていた」との関係者証言も
NEWSポストセブン
出演しているCMの画像や動画が続々と削除されている永野芽郁
《“二の矢”で一気に加速》永野芽郁、止まらない“CM削除ドミノ”  旬の著名人起用で“チャレンジ”続けてきたサントリーからも消えた 永野にとっても大きな痛手に
NEWSポストセブン
真剣交際が報じられた犬飼貴丈と指原莉乃(SNSより)
《仮面ライダー俳優・犬飼貴丈と真剣交際》“芸能界の財テク王”指原莉乃の「欲しいもの全部買ってあげる」恋愛観、私服は6万超え高級Tシャツ
NEWSポストセブン
母の日に家族写真を公開した大谷翔平(写真/共同通信社)
《長女誕生から1か月》大谷翔平夫人・真美子さん、“伝説の家政婦”タサン志麻さんの食事・育児メソッドに傾倒 長女のお披露目は夏のオールスターゲームか 
女性セブン
奥本美穂容疑者(32)の知られざる”アイドル時代”とは──(本人SNSより)
《フリフリのセーラー服姿》覚せい剤で逮捕の美人共犯者・奥本美穂容疑者(32)の知られざる“病み系アイドル時代”【レーサム元会長とホテルで違法薬物所持の疑い】
NEWSポストセブン
ぐんぐん上昇する女優たちのCMギャラ(左から新垣結衣、吉永小百合、松嶋菜々子/時事通信フォト)
【有名女優のCMギャラ一覧表】1億円の大台は80代と50代の2人 10本超出演の永野芽郁は「CM全削除なら5億円近く吹っ飛ぶ」の声も
週刊ポスト