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【書評】日台関係の強い絆を感じさせるノンフィクション

 台湾ではいま「湾生回家」というドキュメンタリーが「ハンカチ三枚必要」と大評判になっている。「湾生」、つまり日本統治時代に台湾で生まれ育ち、戦後、本国に戻された日本人が、高齢となったいま、懐しい台湾に行き、故郷を訪ねる姿を追っている。

 こういう物語が台湾で作られ、台湾の観客に「日本人はこんなに台湾を愛してくれているのか」と感動を与えている。日台関係の強い絆を感じさせる。

 西谷格『この手紙、とどけ!』(小学館・1400円+税)も実際に起きた日台の温かい交流を描いたノンフィクション。熊本県玉名市に住む高木波恵さんは、日本統治時代、台中の烏日公学校(日本の小学校)で先生をしていた。

 戦後、日本に戻ってからも教え子たちのことを忘れたことはない。二〇一五年、高木さんはかつての級長をしていた生徒に手紙を出した。高木さんの年齢はなんと百六歳。生徒たちも、もう八十八歳になっている。

 手紙の宛先は旧住所になっていたので、はじめ届かないままに放置されていた。しかし、台湾の郵便局員たちが、この日本からの手紙は大事なものに違いない、と直感し、地元の家々を訪ね歩き、ついに教え子を発見した。そこから先生と生徒が七十年余の空白を経て再会する。

 二〇〇九年に日本でも公開された台湾映画「海角七号─君想う、国境の南」を地でゆく実話。映画では、日本人の教師が台湾の女学生に書いた手紙が郵便局員の努力で、現代の相手に届く。だから台湾のメディアは高木さんの手紙のことを知り「海角七号真実版!」と報道した。

 著者は台湾に行き、教え子を探し、一人一人に会い、高木先生への、さらに日本への想いを聞いてゆく。興味深いのは、取材の過程で著者が必ず、台湾の人たちに、日本統治時代をどう思うかを聞いていること。

 そこから、戦前生まれの台湾人の多くが日本統治を肯定的にとらえているのに対し、戦後に国民党の教育を受けた世代は「日本統治は間違っており、不幸な歴史だった」と認識している人が多い、と著者は知る。

 現在、台湾の対日感情がいいことは確かで、かつてないほど両国の絆は強まっている。しかし、日本人としてはそれに甘えてはならないだろう。著者が言うように「(対日感情はいい。)だが、実はその背後には統治される立場ゆえの苦悩があったことを忘れてはならない」。

文■川本三郎

※SAPIO2016年6月号

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