三浦も、「10年に1本あるかないかという、やりがいのある作品に出会った」という。撮影は暑い夏。期間も3週間と短く、ストーリーは深刻で重い……。三浦はディテールから役作りに入った。ヒゲは伸ばし放題、いつもは染めている白髪も放置した。主人公の傍若無人さを強調するために、あえて室内でサングラスをかけたらどうかと、監督に提案した。
「ハードスケジュールなので、体力勝負だな、と。それで撮影中も、朝、昼、晩と3食きっちり食べていたら、クランクアップの時には2.5kg太っていました(笑い)。まあ、だらしない役なので、たるんだ体のほうがいいな、とも思っていたのですが」
結果、どこからどう見てもすさんだ、だらしない男が現われた。往年のファンはこの映画を観て「三浦友和じゃない」と叫ぶかもしれない。だが三浦は、その反応を心待ちにしている。
「どんな作品でもそうですが、『三浦友和、うまかったね』といわれても嬉しくないんですよ。それより『あの映画、すごかったね』といわれたい」
自分の名前を覚えていてくれなくたっていい、と三浦はいう。
「極端な話、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画を見て『この人、うまい!』とはいいませんよね。でも、ダ・ヴィンチを知らない子供でも、その絵には圧倒されると思います。演技もそうで、見ている人から『うまい』といわれるのは、それは演技が見え透いているからだと思うんです」
■撮影/矢西誠二 ■取材・文/角山祥道
※週刊ポスト2016年6月10日号