国際情報

大前研一氏 「トランプ大統領なら横田空域の返還求めよ」

もしトランプ氏が大統領になったら AP/AFLO

 ビジネスでも政治でも外交交渉でも、正論をぶつけて正面突破を図るだけでは事態が膠着することが多い。そうした時、カギになるのは「地政学的アプローチ」と「歴史的アプローチ」だ。大前研一氏が、地政学の重要性を解説する。

 * * *
 日本人は自国を取り巻く「地政学」と「歴史」をよく知らない。とくに戦中から戦後10年くらいにかけての期間は“真空状態”になっている。しかし、それを理解していなければ、外国との交渉で的確な判断を下すことはできない。

 たとえば、もしドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領になったとしたら、どう交渉するか。

 トランプ氏は大統領に就任すれば、アメリカが日本防衛のために支出している在日米軍駐留経費の全額負担を日本に要求し、日本が応じなければ在日米軍を撤収すると表明している。この発言に日本側では大騒ぎになっているが、慌てることはない。むしろ、日本には好機になりうるのだ。

 日本の選択肢は2つ。(1)全額負担して米軍に駐留を続けてもらう、(2)在日米軍に代わる同等の防衛力を自前で持つである。このうちリーズナブルな選択は(1)だ。

 アメリカの2016年度の予算教書では、人件費を含む在日米軍への支出は55億ドル(約6000億円)とされる。一方、日本政府が支払っている在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)は年間約1900億円なので、それを足しても8000億円弱だ。日本の防衛費は年間約5兆円だから、在日米軍の軍事力が1兆円程度で保持できるのであれば、安いものだと思う。

 ただし、単なる負担増ではない。その代わりトランプ氏に対しては、終戦後に米軍が接収した横田基地などの返還を要求する。1都8県に及ぶ、いわゆる「横田空域」は米空軍の管制下にあり、羽田空港や成田空港を発着する民間航空機はこの空域を避けるルートで飛行している。

 横田基地が返還されれば、その制限がなくなるという大きなメリットがある。もともと米軍が横田基地を置いたのは日本が二度とアメリカにはむかわないよう首都に睨みを利かせるためだから、もはや必要性はなくなっている。海軍の横須賀基地も陸軍の横浜港・瑞穂埠頭(ノース・ピア)も同様だ。

 もちろん沖縄・普天間飛行場の辺野古移転は取りやめ、嘉手納基地への統合、あるいは嘉手納基地そのものの返還も要求する。

 つまり、もしトランプ氏が大統領になったら、これまで終戦直後の占領状態のままアメリカに隷従していた日本が言いたいことを言えるようになる千載一遇のチャンスが訪れるわけだ。

 このように地政学的・歴史的な分析を交えて有利な条件を引き出していくことが、外交では最も重要なのだ。

※SAPIO2016年7月号

関連記事

トピックス

大谷翔平選手と妻・真美子さん
「娘さんの足が元気に動いていたの!」大谷翔平・真美子さんファミリーの姿をスタジアムで目撃したファンが「2人ともとても機嫌が良くて…」と明かす
NEWSポストセブン
メキシコの有名美女インフルエンサーが殺人などの罪で起訴された(Instagramより)
《麻薬カルテルの縄張り争いで婚約者を銃殺か》メキシコの有名美女インフルエンサーを米当局が第一級殺人などの罪で起訴、事件現場で「迷彩服を着て何発も発砲し…」
NEWSポストセブン
「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年11月6日、撮影/JMPA)
「耳の先まで美しい」佳子さま、アースカラーのブラウンジャケットにブルーのワンピ 耳に光るのは「金継ぎ」のイヤリング
NEWSポストセブン
逮捕された鈴木沙月容疑者
「もうげんかい、ごめんね弱くて」生後3か月の娘を浴槽内でメッタ刺し…“車椅子インフルエンサー”(28)犯行自白2時間前のインスタ投稿「もうSNSは続けることはないかな」
NEWSポストセブン
「埼玉を日本一の『うどん県』にする会」の会長である永谷晶久さん
《都道府県魅力度ランキングで最下位の悲報!》「埼玉には『うどん』がある」「埼玉のうどんの最大の魅力は、多様性」と“埼玉を日本一の「うどん県」にする会”の会長が断言
NEWSポストセブン
受賞者のうち、一際注目を集めたのがシドニー・スウィーニー(インスタグラムより)
「使用済みのお風呂の水を使った商品を販売」アメリカ人気若手女優(28)、レッドカーペットで“丸出し姿”に賛否集まる 「汚い男子たち」に呼びかける広告で注目
NEWSポストセブン
新関脇・安青錦にインタビュー
【独占告白】ウクライナ出身の新関脇・安青錦、大関昇進に意欲満々「三賞では満足はしていない。全部勝てば優勝できる」 若隆景の取り口を参考にさらなる高みへ
週刊ポスト
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
《出所後の“激痩せ姿”を目撃》芸能活動再開の俳優・新井浩文、仮出所後に明かした“復帰への覚悟”「ウチも性格上、ぱぁーっと言いたいタイプなんですけど」
NEWSポストセブン
”ネグレクト疑い”で逮捕された若い夫婦の裏になにが──
《2児ママと“首タトゥーの男”が育児放棄疑い》「こんなにタトゥーなんてなかった」キャバ嬢時代の元同僚が明かす北島エリカ容疑者の“意外な人物像”「男の影響なのかな…」
NEWSポストセブン
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン