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【著者に訊け】高橋秀実氏 『人生はマナーでできている』

『人生はマナーでできている』を語る高橋秀実氏

【著者に訊け】高橋秀実氏/『人生はマナーでできている』/集英社/1500円+税

〈マナー〉と〈ルール〉と〈マニュアル〉と。改めてその違いを問われてみると、意外と説明できないものだ。高橋秀実著『人生はマナーでできている』を読むと、ルールとマナーの混同及び、全てひっくるめたマニュアル化が、マナー=堅苦しい、または高尚で上品といった、日本人の少々歪んだマナー観の元凶にも思えてくる。

 そこで高橋氏は、頼朝の礼法師範だった初代以来、850年続く小笠原流宗家にまずは〈おじぎ〉を学び、満員電車のお約束や行列の美学まで、日本人とマナーの歴史的な関係を、まさに体を張って確かめに行った。

『からくり民主主義』『はい、泳げません』『男は邪魔!』等々、〈何をやってもブレる〉と自負する自らを一種の自虐装置として用い、一見とぼけた顔をして紛れもない「この国のカタチ」を探り当ててしまう著者の目に、1億総品格流行りの平成ニッポンはどう映る?

 その日、高橋氏はなぜか北陸富山にいた。本書にも古来、京から伝播した古語が山々に阻まれて吹き溜まる富山は〈ことばの正倉院〉とも呼ばれるとあり、次回作の取材か何かだろうか。

「いえいえ。単に妻の実家に男手として駆り出されただけです(笑い)。ただ富山にいると富山の話はどうしても多くなるし、私は物書きである前に日々生きているので、探さず、検索もせず、『なんだ、ここにもマナーはあるじゃないか』と気づくのが、私なりの〈やり方〉なんです」

 マナーとは一言で言えば、「やり方」のこと。序章に電車の中で泣き喚く子供の例があるが、「公衆の場では静かに」と叱るのではなく、〈「Put a smile on your face」〉と具体的なやり方を示した米国人女性客の態度にこそ、氏は〈これがマナーか〉と感じ入るのである。

 欧米では子供を叱る時に〈「Watch your manners」〉=自分のやり方を見なさいと言い、〈ルールを破った時、あるいは破りそうな時にどう振る舞うか〉、マナーは人それぞれにあるらしい。

「きっかけは同窓会でした。昔は仕事や結婚相手の話で十分盛り上がれたんですが、50歳にもなるとそんなこと、どうでもよくなるんですよ。人間、歳を取るほど何をしたかよりどうやるかだなあって、俄然やり方のことが気になり始めたんですね。

 もう1つは南米から来た人たちのサッカーチームを取材した時に、『日本人にはマーニャ(マナー)がない』と言われたのも大きかった。日本人は正々堂々と戦ってルールは守るけれど、最も肝心な試合に勝つやり方がなく、手段と目的が逆転していると言うんですね。

 確かに我々はマナー違反に関してのみマナーと言う気がする。でもそれってルール違反の間違いじゃないのか、だったらマナーはどこにあるのかと調べてみたところ、そんなもの、どこにもなかったんです……」

 3章「挨拶で口封じ」に興味深い一文がある。富山で言葉の豊かさに圧倒され、〈「田舎者はお前のほうだ」と返り討ちにあった〉氏は、元々関東は〈無敬語地帯〉だった事実に触れている。敬語の乱れにしても、〈もともとなかったのでいまだ模索中なのである。私も何やらすべて物真似で話しているような気がして、真似している粗野な自分が次第に恥ずかしくなってきた〉と。

 そしてこの「全て物真似」という事態はマナー全般にも通じ、小笠原流でも武家文化に憧れる町方に向けた江戸期の〈しきたり本〉があらぬ誤解を生んだという。本来の礼法は門外不出で、本で身につく代物ではないが、事細かに説明した方が庶民は喜び、本も売れるので、そのマニュアルの方が定着してしまうのだ。

「日本人は昔も今もルールやマニュアルが大好きらしい。ましてマナーは欧米の香りがしますからね。本来の使い方とは多少違っても〈そういうものなんだ〉でお茶を濁す気持ちは、私もよくわかります(笑い)」

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