「朝型勤務」は夏休みの小学生がするラジオ体操のように「季節もの」ではなく、もしやるなら社会のインフラとして考えるべきなのではないか。
三島さんは最近の日本社会に「朝型バンザイ」のような風潮があることを懸念する。
「睡眠というワードは高い確率で『ビジネスの鍵は早起きにあり』みたいなライフハックとして語られることが多い。まるで早起き信仰みたいなものです。人が精神的・肉体的に十分な睡眠量を『必要睡眠量』というのですが、成人の必要睡眠量は遺伝率が0.3~0.5ある、というが最近の研究でわかりました。遺伝率とは大きいほど個人差に遺伝が深く関係していることを表します。
ちなみに記憶力の遺伝率は0.32、知能と体重が0.80、身長が0.86です。つまり人がどれだけ寝るのが必要なのかは遺伝的要素がかなりあって、それは習慣で直せるものではないんです。朝型勤務を強要することは、背の低い人に高いところのモノを取れ、と命じてしまうことになりかねません」
「大切なのは『みんなで早起き』することではなくて、それぞれのクロノタイプ、体内時計という睡眠の多様性に合わせた働き方を模索していくことです」
さて、さきほど朝型生活のために平日に頑張って早起きしても、週末に「ドカ寝」をするとせっかく前倒しになった体内時計が元に戻ってしまう、という話を紹介した。読者にもドキッとした人がいるだろう。その週末の「ドカ寝」を避ける方法がある。昼寝だ。
最近の企業や学校のなかには、平日の勤務内、学校内で昼寝を勧めるところが出てきている。三島さんもその効果は認めるが、「ただし短時間にするのがポイント」という。というのは「寝過ぎ」ては、起きても逆に頭の中がボーとしてしまって、本末転倒になるからだ。
「昼寝の時間の目安は30分以内です。睡眠の深さは4段階あり、30分を超えると3、4段階の深い眠りに入ってしまう可能性が高く、寝起きに影響が出ます。また、昼寝は夜に換算すると2、3倍の眠りに相当します。1時間昼寝をすると夜の眠気を2時間とってしまう。だから昼寝は浅い眠りの方がいいんです」
とはいえ、そんな簡単に寝られない人もいるだろう。そういう人にお勧めなリラックス方法を三島さんが教えてくれた。
「『筋弛緩法』という、不眠症の方の入眠促進として取り入れられているポピュラーな治療方法です」
1:両手の手のひらを10秒から15秒くらい、爪が食い込むくらいぎゅっと握りしめる。そのあと腕をだらんと下げて、指先に血液が流れることを感じる。
2:同じ要領で足首、肩も行う。
3:これを3セット行う。
「ポイントは身体の緊張と弛緩の感覚に注意を向ること。これをやるとクールダウンして寝やすくなります」