薬物依存症者は、法の違反者であっても、人道に反する極悪人ではない。覚醒剤を止めたくないから介護を盾にして芸能界を引退した、などという悪人ストーリーをよくペラペラ言えたものだ。捜査員に「ありがとうございます」と話したのは、「これでようやくクスリと縁が切れる……」という安堵の気持ちの表れだった可能性もある。下を向かなかったのは、逃げも隠れもせず自分に決着をつけるという意思表示だったかもしれない。なのに、伊藤さんよ、あんたの願望で決めつけるなよ、と。

 私の見方が、高知側に立ちすぎと思われることは分かっている。が、依存症者に対する目線として、このくらい当人寄りになる必要があると思うから、そう見るのである。

 依存症者は、「反省」くらい何百何千回としている。だが、止めると何度決意しても止められない。そんな自分が情けなく、悔しく、辛く、また依存の世界に逃げてしまう。その無限ループの地獄から脱出するには、テリー伊藤のように依存症者の人格攻撃をして孤立させるのではなく、存在を認め、治療に促すまわりの態度が不可欠なのだ。

 依存症の治療や支援に関わる人には、何を今更という以上のような常識を、このたびの騒動で、専門家に語らせたマスコミがどれだけあったか。特に、今でも図抜けて影響力の強い媒体であるテレビが、異物をヒステリックに叩いて排除する以外の何かをしたか。疑問だ。

 比して、ネット上では、「テリー言いすぎ」という声もちらほら拾えた。それでも、いい歳して覚せい剤で逮捕されるだなんて理解できない、という声の方が圧倒的に多い。

 私も覚醒剤をやったことはないし、高知東生の心が分るわけではないが、想像ならできる。今回の場合は、想像の手助けとなる「資料」も、ネット上に残されている。
 
 たまたま見つけた「資料」を紹介しておこう。「Twitterピカピカの一年生だす!」という今年5月15日のツイートから始まる、高知東生本人のツイッターアカウント「@noborutakachi」が存在するのだ。

 当アカウントは、有名芸能人とのプライベート写真をしばしばアップするも、そのわりにリツイート数やフォロアー数が伸びていない。全体的に空回り感がある。他の人とリプライでやりとりした形跡もない。何か言いたげなのだが、言語化の力が足りず、伝わらない。

 その代りというか、6月21日までの全60ツイート中、2回取り上げている相田みつをの詩が目を引く。額縁に入った作品の写真をアップしているのだが、高知はそれを家の中に飾っているとのことだ。

 詩の一つは、「ただいるだけで」という題。そこにただいるだけで、場の空気が明るくなり、みんなのこころがやすらぐような人間になりたい、という内容である。高知の孤独感がじんわり伝わってくる。

 もう一つは「道」。人生には避けて通れない道がある。その道は黙って歩け。愚痴、弱音、涙なしに黙って歩けば、人間として成長できる、といったことが書かれている。

 これはいけない。そんなに人生が辛いときは、一人で溜めこんじゃダメだ。相田みつをのせいじゃないが、こんな詩を大事にしているから孤独をこじらすのだ。男は黙って~みたいなのは、故・高倉健の時代で終わったのに、私と同学年のこの男の頭は古く、そして固すぎる。

 おそらくこれから高知東生は、薬物依存症の治療プログラムで、集団精神療法や自助グループの参加を経験する。そこで自分が抱えてきた思い、愚痴、弱音、涙を人にどんどんこぼし、流すことになる。今までの「道」と縁を切る挑戦者の姿を、このツイッターアカウントでも堂々と見せてもらいたい。

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