1986年の映画『犬死にせしもの』では主演をしている。

「この映画でも、本番でガンガン芝居を変えましたよ。そうしたら西村晃さんに『浩市、俺は付き合うよ。でも、そういうのがダメな役者もいるからな』って。でも、僕は『何を言ってるんだ。やったもん勝ちだ』って思ってるところがあって。でも、それは大きな勘違いでした。

 蟹江敬三さんと吉行和子さんとのシーンがあったのですが。僕が二人に喧嘩を売って出ていって、蟹江さんと吉行さんが残るという芝居で。なんか『面白くねえな』と思って、灰神楽の灰を二人に投げつけて出て行ったわけですよ。それは『OK』になったんですが、できあがった映画を観たらば、僕が投げた灰の真白い中でお二人は延々とお芝居をされている。

 その時、『俺は一人じゃないんだ』と、自分の勘違いに気づきました。当たり前のことなんですが。僕は芝居を習っていないから現場がメソッドなんです。

 それでも、何回かテイクを重ねると自分で芝居を変える瞬間がある。その時には、あらかじめ演出家と共演の役者に『こうなるかもしれません』と最初から提示することにしました。

 芝居を勘違いして、遠回りしなければ見えなかった景色が見れたんだと思います。『64─ロクヨン─』では瑛太が凄く芝居を変えてくるんですが、それを見ていてなんか嬉しくなっちゃう。『ああ、お前は今、そこにいるのか』って」

●かすが たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』(文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』『市川崑と「犬神家の一族」』(ともに新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

■撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2016年7月15日号

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