◆「ライバル」から「家族」に
麻生家も閨閥の華麗さでは安倍家に勝るとも劣らない。現在に引き継がれる日本のエスタブリッシュメントは、明治の薩長藩閥政府の時代に原型が形作られたといわれる。
安倍首相が長州閥なら、麻生副総理の母方の高祖父は薩摩閥の重鎮・大久保利通だ。父方の麻生家は代々、筑豊の庄屋の家系で、曾祖父の太吉は「炭鉱王」と呼ばれた。麻生氏の祖母は旧華族の加納子爵家の出身で、橋本龍太郎夫人は「またいとこ」にあたる。
さらに麻生氏の妹は三笠宮寬仁親王に嫁いでおり、三笠宮家を通じて細川家、近衛家と親戚になる。また、夫人の父は鈴木善幸。この鈴木家は宮沢家、岸田家と親戚にあたり、宮沢家からはブリヂストン創業家の石橋家、そして政界の名門・鳩山家や池田勇人に連なる。
かつて吉田茂と鳩山一郎が政界のライバル関係にあった時代、吉田は炭鉱王の麻生家に娘を嫁がせてスポンサーを得たし、鳩山は長男の嫁にブリヂストン創業家の石橋家の娘を迎えて資金力をつけた。
この頃はまだ両家は親戚ではなかった。その後、政略結婚などによって名門は複雑な閨閥でつながった。それから半世紀、麻生内閣を鳩山家が倒し、その鳩山家が作った民主党政権を安倍家が倒して政権を取り戻した。この時、すでに3家は親戚になっていた。
登場する13人の総理の在任期間を合わせると40年を超える。現役の政治家や財界人の顔ぶれを並べれば、内閣や経団連執行部を構成できそうだ。1つのビッグファミリー(閨閥)が戦後史の半分以上、そしていまなおこの国の政治を支配し続け、政権交代を賭けた権力闘争さえ、同じ閨閥内で行なわれている。それがこの国の権力構造なのである。
※週刊ポスト2016年7月22・29日号