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「越境者」戸井十月が遺した日本人へのメッセージ

戸井十月氏は64歳の若さでこの世を去った

【書評】『戸井十月 全仕事 「シャコタン・ブギ」から「五大陸走破」 まで世界を駆け抜けた作家の軌跡』/『戸井十月 全仕事』編集委員会編/小学館/本体3000円+税

戸井十月(とい・じゅうがつ) 1948年~2013年。東京都生まれ。武蔵野美術大学中退後、作家、ルポライター、映像ディレクターなど様々な分野で活躍。バイクを主な移動手段として世界を回り、その走行距離は30万kmに及んだ。公式HP「越境者通信」は今も続く。

 3年前、64歳の若さでこの世を去った作家・戸井十月。本書はその生涯にわたる仕事の中から主要な作品60以上と、戸井と関わった周囲の人々100人近くの証言を収録したものである。

 戸井が取り組んだ仕事の分野は実に多岐にわたる。イラストレーターとしてマスコミにデビューし、NHK「若い広場」などテレビ番組の司会・レポーターを務め、暴走族のリーダーたちをルポした『シャコタン・ブギ 暴走族女リーダーの青春』で話題を呼び、自らも企画に参加した映画『爆裂都市 BURST CITY』に出演し、数々の小説を書き、世界中をバイクで縦横断し、国内外の人物のインタビュー・評伝を手掛け……といったように、分野の枠を越え、縦横無尽に駆け抜けた。

 著書の書名を借りれば、戸井はまさに〈越境者〉だった。戸井が生涯に海外取材で訪れた国は63か国を数え、文字通り国境を越え続けた。また、証言者の数とその幅の広さが示すように、人間関係においても垣根を作らなかった。

 戸井の作品の中で、特に今、読む意義があるのは紀行文学ではないだろうか。今は全てがスマホの中にあると錯覚されるが、戸井はそれとは対照的に自らの肉体で地を這うように世界を回り、生身の人間と出会い、語り合った。だからこそ、戸井の作品は世界の本当の面白さを伝えてくれる。

〈もっと現実の世界を直接見たい。生身の人間たちと直接出会いたい……。未知の世界を知れば知るほど、もっと知らない世界があることを知らされる。だから、旅をすればするほど旅への想いは募っていく。旅とは、そういうものだ〉

 本書には、委縮し、閉塞した時代へのメッセージが詰まっている。

※SAPIO2016年8月号

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