セブン&アイ・ホールディングスでは鈴木敏文会長と、創業家である伊藤雅俊・名誉会長が対立して鈴木氏が会長退任。出光興産では昭和シェル石油との合併計画が出光昭介・名誉会長ら創業家の反対により雲行きが怪しくなっている。これら経営にタッチしない創業家による“お家騒動”が相次ぐ一方、一度は離れたはずの創業家を経営トップに据える「大政奉還」も目立つ。
トヨタは赤字に転落した2009年、創業家のプリンスである豊田章男氏が社長に就任。章男氏は就任直後に米国での大規模リコールに伴うバッシングと米議会公聴会での証言という苦境を切り抜け、最高益を出すまで業績を回復させた。
経済ジャーナリストの松崎隆司氏は「大政奉還」のメリットをこう語る。
「創業家経営者の強みは、会社を自分のものにしようとか、高額な退職金をもらおうと考えないことです。それが社員にも伝わるから社内全体のモチベーションが高まる。また雇われ社長と違って大株主側への遠慮がいらないので思い切った経営決断ができる。トヨタのV字回復がまさにそうでした」
キヤノンも欧州債務危機で業績が悪化すると経団連会長まで務めた御手洗冨士夫・会長(創業者の甥)が社長に再登板し、事業の再構築を大胆に進めた。逆に、サントリーは創業家の佐治信忠会長がキリンとの統合計画を進めたが不首尾に終わると、2014年にはローソン社長だった新浪剛史氏を社長に抜擢した。だが、これも将来の大政奉還をにらんだ布石だとみられている。『経済界』編集局長の関慎夫氏はこう指摘する。
「佐治氏はサントリー単独で本格的な海外展開による事業拡大をはかるために社外から“プロ経営者”の新浪氏を招いた。新浪氏を使って海外展開を進めながら、いずれ従兄弟の子どもである創業家の鳥井信宏・副社長に大政奉還させることが既定路線と見られています。信宏氏はサントリーと異なった経営手法を持つ新浪氏のやり方を学ぶことができる」
※週刊ポスト2016年7月22・29日号