「本名で通学していたのですが、名前に加えてあのルックスですから。“あいつはハーフだ”といじめを受けてきたんです。クラスメートからわざと違う集合時間を教えられて遅刻してしまったり、嫌がらせは日常茶飯事だったといいます」(水原を知る芸能関係者)
外国籍の人間が日本で暮らすとはどういうことか。いまだに残る差別や偏見だけでなく、制度の上でも壁がある。
日本で生まれ育とうとも、彼らには日本に戸籍がなく、参政権もない。子供の義務教育就学通知書も来ない。在留カードの常時携帯義務を課せられ、破れば最悪、本国に強制送還される。役所の書類、銀行口座の開設、全て日本人の数倍の手間がかかる。例えば戦前から日本に住み、特別永住権を持つ在日韓国人でさえ、1960年代後半まで健康保険にも入れなかった。
水原もまた、同じ境遇で生きてきた。韓国人の母、アメリカ人の父。日本に住みながら、帰属する場所がない。水原は思春期になると「アイデンティティーの壁」にぶつかった。 自分は一体何者なのか――救ったのは母の教えだった。水原は6月、『AERA』のインタビューでいじめに泣いた過去を振り返り、こう語っている。
《「あなたは他の誰とも違う世界でたったひとつのかわいさを持っているんだから、自信を持ちなさい」と言ってくれて。その言葉がずっと心の支えだった》
中学に入り、モデル活動を始めた水原は、仕事場でさらなる希望を見つけた。
「モデル業界はハーフのかたがたくさんいますから。みんな自信を持って生き生きとしている。彼女たちを見て発奮したそうです。“国籍なんて関係ない。私だってやれる”って」(前出・芸能関係者)
2010年に映画『ノルウェイの森』のヒロイン・緑役に抜擢されると、その思いはより一層強くなった。監督はベトナム人のトラン・アン・ユン。演技経験のない水原は監督の熾烈なダメ出しに耐えながら緑を演じきった。作品は世界50か国で公開され、中国や韓国だけでなく、欧州各国で絶賛された。
「外国人の監督が日本の小説を映画にし、世界に勝負していく。その姿に刺激を受けたそうです。国籍がどこかなんてもはやナンセンス。“日本に住み、韓国人の母を持ち、米国籍の自分が世界に羽ばたいていくことに意味がある”と彼女はよく話していました」(前出・芸能関係者)
その言葉通り、以降の水原はモデルと女優の両輪をフル稼働し、破竹の勢いで世界に羽ばたいていった。『ヘルタースケルター』(2012年)、『進撃の巨人』(2015年)と海外で注目を集め、今年は『信長協奏曲』『高台家の人々』など話題作に出演。複数の次回作が控える彼女の目下の夢は、中国映画界の巨匠、ウォン・カーウァイ監督の作品に出演することだと公言している。冒頭の動画は、水原のこんな言葉で締めくくられた。
「私たちはそれぞれ異なった文化的背景を持っています。私は信じています。より多くの相互理解、愛と平和がわれわれをさらに近づけ、世界の平和をよりよくすることを」
※女性セブン2016年8月11日号