この世に生を受けて半年ほど、大勢の前に引っ張り出されて不安そうないたいけな子馬に、みな夢を託していきます。セリ値はその場の雰囲気に左右されるといいますが、会場には買い手の意欲を押し上げる何かがあります。初日の最初のセリ、「アドマイヤセラヴィの2015」の父はウチで育てたルーラーシップ。どうなるかなと見守っていると、いきなり8400万円まで値が上がってびっくりしました。
高額馬ばかりが注目されがちですが、角居厩舎のセレクトセール出身馬は比較的リーズナブルでありながら好成績を残してくれています。カネヒキリ(2000万円)、デニムアンドルビー(3900万円)、ラキシス(3000万円)など、馬主さんの相馬眼には脱帽するばかり。ホースマンの馬を見る目が問われる場でもあるのです。
皆お目当ての良血馬をなんとか手に入れたいと思っているわけですが、同時に、馬主さん、生産者、調教師、騎手、ジャーナリストなどが一堂に会する賑やかな社交の場でもあります。セリの合間に意見交換をすることで、それぞれの立場における課題も見えてきます。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、馬文化普及、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。
※週刊ポスト2016年8月5日号