「日本は特別な国だ」と、私たちはどこかで思い込んでいる。だから、世界情勢の話題が他人ごとにしか思えない。だが、そうした思いこみから日本人は世界の流れを見誤り、失敗を重ねてきた。新刊『世界史としての日本史』(小学館新書)で初対談した半藤一利氏と出口治明氏が、共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏の発言から日本と米国の関係について語り合った。
出口:共和党の大統領候補になったトランプ氏の発言を聞いていると、歴史は振り子のように振れながら進むものだということを改めて思い知らされます。
半藤:トランプ氏は、米国に日本を守る義務はない、自国さえ良ければいいという一国主義に戻ろうとしていますね。
出口:ベトナム戦争の後も同じように、米国は厭戦気分から一時的に一国主義に振れました。そこから逆に振れて「9.11」の後で外に出て行くようになったんですが、アフガン、イラクで泥沼にはまると、また「世界の警察官を気取っているから、こんなことになるんだ」という人が出てきた。常に振り子なんですね。
半藤:米国の一国主義は、第二次世界大戦前にモンロー大統領がヨーロッパとの相互不干渉を提唱した「モンロー主義」にまで遡ります。ただし、これを真に受けてはいけない。当時の日本は、米国はモンロー主義だから参戦してこないと信じて南進した。ヒトラーも信じていた。しかし、いざとなったら米国は出てきて、日本もドイツも叩きのめされたわけです。
今の国際情勢を考えても、モンロー主義に徹しきるのは不可能です。そもそもトランプ氏が大統領になったとして、その過激な政策を認めるほど米国の議会はヤワじゃありません。
出口:トランプ氏の過激発言は選挙向けですしね。しかしなぜ彼が、日米同盟を軽視する発言をするかというと簡単な話で、日本の地位が低下したからです。
半藤:まったく同感です。