愛ちゃんの葬儀から2週間で始まった名古屋場所。千代の富士は首に大きな数珠をかけて場所に通った。
「涙を流して娘が帰ってくるなら泣く。それより、あの子のために優勝する」
この場所、千代の富士は左肩脱臼の影響もあり、満身創痍の状態で、「15日間土俵に上がるだけで奇跡」といわれるほどだった。
それでも愛ちゃんの霊前に供えるように、1日、1日、白星を積み重ねた。そして史上初となる同部屋の横綱同士による優勝決定戦の末、北勝海(現・八角親方)を破り、見事に優勝を果たす。千代の富士は後にこうも語った。
「忘れようと頑張った。でも、死んだ娘が後ろから押してくれて勝った、と思う相撲もあった」
今年6月4日、九重親方は東京・台東区にある菩提寺を訪れ、愛ちゃんの眠る墓前で手を合わせた。
「(親方の)緊急入院は7月13日でした。19日の優さんの誕生日は、個室の病室でおかみさんと3人でお祝いをしたそうです。体調が急激に悪化し、集中治療室に運び込まれたのは24日。しだいに意識がなくなり危篤状態になりましたが、27日の梢さんの誕生日は何とか持ちこたえた。最期の最期まで、親方は気力を燃やし続けたんです」(前出・相撲関係者)
2人の娘の誕生日を祝い終えた31日、大横綱は逝った。
※女性セブン2016年8月18・25日号