「2度の五輪を経験して、世界で戦うことがどれほど厳しいか、『そんなに簡単に戻れる場所じゃない』というのは、本人がいちばんわかっているんです。幼い娘と離ればなれになることも不安だったでしょう。でも、せっかくチャンスがあるなら、やらずに後悔するよりも、やってみてダメだった、と思えばやめればいいわけですから。それぞれができることをしよう、と決めたんです」
◆「女性も社会進出する時代」と子育てを助ける
絵里香さんはバレーボール選手として再び世界を目指し、女子ラグビーのクラブチーム「東京フェニックスRC」の代表を務める洋平さんも自身の仕事で飛び回る。子育てのすべては、和子さんの仕事だ。
例えば、ある1日を例にするならば、7時に起床して孫娘に食事をとらせ、洗濯、掃除など家事を片づけ、10時頃には地域の施設で遊ばせ、帰宅後は昼食の準備。昼寝の間に夕飯の支度を手早く済ませ、目が覚めたらまた孫娘と手をつないで近所を散歩、18時に夕食を済ませて入浴し、合宿中の絵里香さんとテレビ電話でその日の出来事を報告して21時に就寝。息つく暇もない。
「30年ぶりの子育ては並大抵のことではない、と思っていましたけど、年をとると体もきつい。友達には『孫はたまに会うからかわいいのに』って同情されるんです(笑い)」
あまりの忙しさに体調を崩したこともあるし、時には些細なことで絵里香さんや洋平さんと衝突することもあるというが、それも家族が協力し合い、夢を叶えるためには必要なことだと和子さんは言う。
「私の時代は結婚したら仕事を辞めるのが当たり前。でも今は違う。女性も社会進出する時代ですから、子育てしながら仕事、絵里香の場合はバレーボールをするのは大変なことだけれど、だからこそサポートが大切で、絵里香自身も『お母さんがいないと無理』とわかっています。だから休みの日は体が疲れていても絵里香は和香と遊ぶ時間をつくって、私は休暇をもらうんです(笑い)。教師として大勢の子供に接する人生もあれば、わが娘の子供に注ぐ人生もある。結構楽しいものですよ」
リオ五輪は、孫娘と2人、日本からテレビで声援を送る。
「治安も心配ですよね。結果も大事だけど、無事に、早く帰ってと、それがいちばんです」
3度目の五輪で金メダル獲得を目指す娘を、どんな時も温かく、母が見守っている。
●取材・文/田中夕子(スポーツライター)
※女性セブン2016年8月18・25日号