なかなか事前の対策通りにならないが、投手の「高さ」対策が功を奏したチームもある。松山聖陵のアドゥワ誠投手と対戦した北海である。アドゥワ投手は身長196センチ、高いところから投げてくる「角度」が特徴だ。かつてダルビッシュ有投手（東北）と対戦した学校は、マウンドに台を載せてその上に打撃投手が乗ってダルビッシュ投手の「高さ馴れ」の工夫をしたものだ。
北海が対策したのは「高さ」ではなく「近さ」だった。平川敦監督が語る。
「身長が高い投手は身体が大きいだけに、打者から見て近くに見えると聞きました。角度よりその距離感が問題なんですね。だからバッターボックスを2メートルぐらいマウンド近くに移動させて、マウンドの投手と近くなるように設定して打撃練習してきました」
結果はアドゥワ投手を打ち込むとまではいかなかったが、9回サヨナラ勝ちをもぎ取った。北海の菅野伸樹選手は、
「マウンドのアドゥワ投手を見ても威圧感がありませんでした。近く感じる練習をしていたおかげです」
としてやったりの表情だった。
ユニークな対策を立ててきたのが、大曲工だ。大曲工は秋田大会のチーム打率が2割を切る、参加校中最低打率だ。対する花咲徳栄のエース高橋昂也は埼玉大会で失点ゼロ、140キロのストレートと変化球、抜群のコントロールを誇る。最低チーム打率打線対トップクラス投手の対戦である。しかし大曲工の阿部大樹監督は、
「相手投手のビデオ見たりとか、打撃投手を前に出して練習したりとか、ほとんどやってきませんでした」
という。というのは秋田大会での自分たちの打撃に問題があると分析したからだ。
「打者が慎重になり過ぎて、バットが出て行かなかったんですよ。空振りもファールも少なかった。打ってもフルスイングするようなところがほとんどなかった。そこへ低めの変化球を見極めろとか、高目のボール球に手を出すなとかいうと、よけいうちの打者は萎縮してバットを振らなくなります。だからストレートならとにかく振っていく作戦にしました。高目のボール球に手を出してもオッケー、三振もオッケーといってあります」
「ボールになる変化球を見極めろ」「高目のストレートに手を出すな」とは、よくいわれることである。だがたしかに、「打つ」作戦なのに両方とも「打つな」という命令形になっているのはおかしい。大曲工がとったのはとにかくバットを振るという、いうなれば「振れ振れ大作戦」である。
結果は高橋投手から10安打を放った。ホームランも打って、初めて無失点の高橋投手に「土」を付けた。ちなみにホームランを打った選手は県大会でヒットを1本しか打っていない。負けて、阿部監督は「良い試合をしても意味が無い。勝たなくては」と悔しさを隠さなかったが、果敢に高橋投手に向かっていく姿は感動的ですらあった。
