スポーツ

夏の甲子園で好投手を攻略するための意外と原始的な方法

勝つのは打者か投手か

  今年の夏の甲子園は好投手が多い。負けたら終わりのトーナメントでは、各校ともその対策に力を入れてくる。果たしてどのような策があるのか、取材してみた。すると、意外な「作戦」が効果あることがわかったという。現地で取材するフリー・ライターの神田憲行氏がレポートする。

 * * *
 どんなチームでも相手チームの投手後略に対策を練る。オーソドックスなものは、相手投手と同じフォームの打撃投手で打撃練習をする。左腕の下手投げみたいな珍しいタイプの投手など自分のチームにいない場合は、OBを呼んで投げてもらったりする。球の速い投手なら、マウンドのプレートから1メートルか2メートルくらい前に立たせて投げてもらい、速さに「目慣れ」する。

 相手投手の変化球、配球も分析する。昔は相手投手のビデオを入手するのに苦労したものだが、いまはファンがネットに上げていたりするので、それを見る場合も多い。

 私が印象深いのは1998年の横浜高校だ。鹿児島実業の杉内俊哉投手の縦に割れる大きなカーブの軌道にバットを合わせるため、ホームベースの上にボールを置いてゴルフのように打つ練習をしていた。またPL学園はその横浜の松坂大輔投手を攻略するため、速球の「目慣れ」をした上でストレートを捨ててカーブに狙いを絞った。「変化球は遅い球」という意識を植え付けるためだった。

 今大会ではどのような対策を各校が練っていたのか。

 まずは今大会屈指の左腕である履正社の寺島成輝投手と初戦で対戦した高川学園は、4番石丸隆哉選手は試合前にこう話していた。

「左腕のOBに毎日プレートの5メートル手前から投げてもらいました。速すぎて『当たるわけないだろ』と思いました(笑)。バッターは打席でホームベースギリギリに立って、内角に投げさせない作戦です。三振取りに来た球に当てるだげても食らいつきたい」

 このベースのギリギリに立つというのもよくある作戦である。内角の球は死球になる確率が上がるので、投手は外角寄りの配球になる。そこを狙い打つ、というわけである。しかし高川学園は2安打1点に抑えられた。石丸は、

「追い込んでから投げてくるストレートに伸びがありました」

 と試合後にうなだれた。

 ボールの「伸び」「キレ」はピッチングマシンにはない、生身の人間が投げる球のみが持つボールの特色で、実際に打席にたってみないとわからない。具体的にバッターにどのように写るのか。初戦で横浜に敗れた東北の選手がうまく表現してくれた。

 横浜のエース・藤平尚真投手は150キロ近いストレートを投げ込んでくる。対戦した東北の4番植木利久選手はそのボールをこう表現した。

「藤平君がボールを離したところから2個分くらいホップしてくる感じです。真ん中に来たと思ってバットを振ると、高目のボール球を振らされている」

 物理的にボールが上昇するする現象は考えにくい。だがテレビでよく見る高目のボール球を空振りシーンには、そんな理由があったのだ。

 ビデオ映像でいくら事前に確認しても、実際に打席に立つとやはり想定外のことがいろいろ出てくる。関東第一は広島新庄の堀瑞輝投手のクセ球に面食らった。堀投手は左腕がやや下がり気味のところから出てくる速球派で、県大会では1イニングで1個以上の三振を奪っている。関東第一の右打者の菅谷圭祐選手は実際に打席に初めてわかったことがあった。

「右打者のアウトコースのストレートがナチュラルにシュートして逃げていくんです。変化球のコントロールもよくて、あれで内にスライダーが決まったら打てません」

 右打者からすると左投手の球がいったん自分に向かってくる。それがベースの手前で逃げていく。上から見ると「く」の字のような変化だ。加えて逆にスライダーで内角に食い込んでくる球(上から見ると逆「く」の字)もある。内、外と真逆の変化球があるとなかなか捉えられない。

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン