「新卒で入った製薬会社の仕事はキツかったけど、東京での生活は刺激的で楽しかった。30歳くらいまでは、ほとんど仕事で出会った人と付き合っていましたね。同期、先輩、取引先。彼氏とケンカした次の日は会社を休んだりと、今から考えると恥ずかしいことをしていましたが」
なぜその間、結婚に至らなかったのだろうか。
「結婚願望はずっとあったんですけどね……。ありていに言えば、好きな人には好かれず、自分を好きになってくれる人を、十分に好きになれなかった。付き合うだけなら、それほど好きじゃなくてもまあいっか、週末を仲良く過ごせるなら、って割り切れるんですが、結婚には踏み切れなくて。でもいつか、結婚にふさわしい人に出逢うだろうと思っていました」
白馬の王子さまはやってこなくとも、生きている限り平等に、歳はとっていく。31歳のとき、製薬会社を辞めて、インテリアコーディネーターの学校に通うことを決意した。思い切った決断を後押ししたものは何だったのか。
「いつか結婚する、と根拠なく思っていたから、製薬会社で一生働いてキャリアアップしていく、いうイメージを抱けなかったんです。ある程度会社で働いたら、その後は自分の好きなことをやりたいなと。根底に、私は男性に食べさせてもらえる、という考えがあったんだと思う。自信半分、甘さ半分……かな。インテリアが大好き、というわけでもなかったのですが、新しい世界に魅せられて学校に通い始めました。元来、勉強は嫌いではないので。
当時付き合っていた彼は応援してくれましたね。2年間の学校だったので、卒業して、仕事の目処が立ったら結婚しようと言ってくれて。それまでは応援するよって。彼は製薬会社の同期で、私は、働いても働かなくても、好きにしたらいいという考え方でした。正直、トキメキはないけど安心できる人。それはもう、心からありがたいなと思っていましたから、結婚するだろうと思っていたのですが」
33歳で専門学校を終えると、学校に紹介されたデザイン事務所にアシスタントとして入社する。「初任給より少ない給料だった」というが、すでに同棲をはじめていたため、あまり気にならなかったという。仕事柄、オシャレな場所での会食やパーティも増え、生活はいっそうキラキラと輝きだした。30代前半の優子はまだ十分に美しかった。
「彼は子供を欲しがっていましたから、一刻も早く籍を入れたいという雰囲気。一方の私は、事務所の女社長にこき使われて(笑)、徹夜することも少なくなかった。要するにすれちがいの生活が続き、仕事に慣れるまでもう少し待ってほしいと。ガツガツ働きたいわけではなかったのですが、新人だからある程度は仕方ないなと。目の前のことをこなしているうちに、責任ある仕事も任されるようになってきて、フリーランスとして独立したんです」
しかし、35歳の誕生日を前にした矢先、彼氏から別れを告げられた。
「ああ、来たかと。待たせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいでした。でも考えてみたら、私のほうが崖っぷちですよね。彼がいるという保険があったから会社も辞めたのに、アラフォーになって捨てられて、仕事も安定していない。いまから思えば、彼に謝って、すがってでも結婚してもらうべきだった。それができなかったのは……」
それなりにモテてきた女のプライドだろうか。あるいは勉強も仕事も人間関係も、そつなくこなせてしまうがゆえに、何かを強く主張したり、何としてでも欲しいものを手に入れる強さを、持っていなかったのかもしれない。