たった数十人の反天連デモとカウンターとの衝突を防ぐために、毎年、二千人近くの機動隊と公安職員が動員される。九段下交差点を俯瞰できる居酒屋の窓辺では、左右両極の衝突を酒の肴に、団体客が飲んでいた。沿道から反天連デモに突入する血気の人が現れるたびに「お、行った行った!」。まるで五輪観戦の気分である。

 肖像権の侵害! などと機動隊と公安に怪気炎を吐いていた反天連デモ参加者は、完全に国家権力に守られている。「天皇制国家」の走狗である司法官憲に防護されて街を練り歩いて、恥ずかしくないのか。

 天皇制国家を打破したいのなら、官憲に頼らず「楯の会」のような民間防衛組織でも作ったらどうか。そんな企画力も意思もない。

 英霊への顕彰を無視した異様な左右の激突は、反天連が過ぎると、ものの10分もたたずに規制線が解除される。機動隊員たちが仲間と談笑しながら、トラックに鉄柵を積み込んでいた。

 靖国は日常に還る。

●ふるやつねひら/1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。主な著書に『愛国ってなんだ 民族・郷土・戦争』『左翼も右翼もウソばかり』。近著に『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』。

※SAPIO2016年10月号

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