ライフ

エスカルゴを伊勢うどんの麺に載せたら美味かったという話

小説『エスカルゴ兄弟』著者の津原泰水氏

 エスカルゴとうどんというユニークな組み合わせと人間模様を描く津原泰水氏の小説『エスカルゴ兄弟』が話題を呼んでいる。伊勢うどん大使であり松阪市ブランド大使を務める大人力コラムニスト・石原壮一郎氏が津原氏に創作の裏側を直撃した(敬称略)。

 * * *
 讃岐うどん屋の息子と伊勢うどん屋の娘が恋に落ちる――。まさに、うどん界におけるロミオとジュリエット。そこに稲庭うどん屋の御曹司もからんできて……。『ブラバン』や『11』などで知られる人気作家・津原泰水氏の最新作『エスカルゴ兄弟』(角川書店)は、何を思ったのか、極めてうどん色が濃い作品でした。

 うどんとともに重要な役割を果たしているのが、食用カタツムリの「エスカルゴ」です。作品に出てくる「エスカルゴ・ファーム」のモデルは、世界で唯一、本物のエスカルゴの完全養殖に成功している三重県松阪市の「エスカルゴ牧場」。松阪市生まれで、僭越ながら松阪市ブランド大使と伊勢うどん大使を務めさせてもらっている私としては、じっとしてはいられません。作者を直撃し、なぜ三重県的にも伊勢うどん的にもこんなに嬉しく胸躍る設定の小説を書いてくれたのか、真意を問い質しました。

──主人公は、吉祥寺にある実家の立ち飲み屋をエスカルゴを売りにしたフレンチの店にリニューアルしようとしているぐるぐる好きの変人カメラマン・雨野明彦と、巻き込まれて編集者から料理人になる伊勢うどん屋の息子・柳楽尚登。そして、ソフィー・マルソー似の伊勢うどん屋の娘も登場します。とても面白くて最後まで一気に読んでしまいましたが、なぜエスカルゴなんですか!?  なぜ伊勢うどんなんですか!?

津原:もともとはエスカルゴという謎の多い生き物に興味があって、15年ぐらい前から、養殖に成功する男女の話を構想していたんです。ところが、下調べをしているうちに三重のエスカルゴ牧場のオープンを知りました。フィクションが現実に追い越されてしまったわけです。そこで、エスカルゴを扱うレストラン側から描くというふうに仕切り直しました。伊勢うどんを作品の主要なモチーフにしたのは、エスカルゴ牧場がある三重県がその本場だったからです。偶然がきっかけでしたが、伊勢うどんがなかったら物語は成り立たなかったでしょうね。

──そうでしょう、そうでしょう。伊勢うどんにはそういう不思議な力があるんです。きっと伊勢うどんの神様が「ここはワシの出番じゃな」と思ったに違いありません。

津原:か、かもしれませんね。で、まず伊勢うどんありきで、対抗勢力として讃岐うどんを登場させました。僕は広島出身なので、船で渡ればすぐ讃岐ですから、讃岐うどん地元民のうどんに対する意地や排他性はよく知っています。あらためて取材する必要もないということで、迷う余地はありませんでした。

──世界で初めての「うどんをモチーフにした文学作品」で、伊勢うどんが重要な役割を果たせて、本当に光栄です。ありがとうございます。

津原:いや、その、メインはエスカルゴですけど、ま、いいです。エスカルゴはまだまだ庶民には手の届かないファンタジックな食ですが、うどんは現実の食です。誰もがおいしさを想像できるうどんが、食べたことも見たこともない未知なる食に読者の興味をかき立てる“梯子”の役割を果たしてくれました。

──さすが伊勢うどん、いい仕事しますね。ま、讃岐うどんもがんばってましたけど。

津原:でも、連載が始まる前、愛媛出身の担当編集者に『伊勢うどんを登場させたい』と言ったら、激しく難色を示されたんですよ。えー、なぜよりによってあのやわらかいうどんを……ほかのうどんならまだしも……って。その瞬間、これはイケると思いましたね。

関連キーワード

関連記事

トピックス

電撃引退を発表した西内まりや(時事通信)
電撃引退の西内まりや、直前の「地上波復帰CMオファー」も断っていた…「身内のトラブル」で身を引いた「強烈な覚悟」
NEWSポストセブン
女性2人組によるYouTubeチャンネル「びっちちゃん。」
《2人組YouTuber「びっちちゃん。」インタビュー》経験人数800人超え&100人超えでも“病まない”ワケ「依存心がないのって、たぶん自分のことが好きだから」
NEWSポストセブン
悠仁さまの大学進学で複雑な心境の紀子さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、大学進学で変化する“親子の距離” 秋篠宮ご夫妻は筑波大学入学式を欠席、「9月の成年式を節目に子離れしなくては…」紀子さまは複雑な心境か
女性セブン
ニューヨークのエンパイヤ・ステイトビルの土産店で購入したゴリラのぬいぐるみ「ゴンちゃん」は、公演旅行に必ず連れて行く相棒
【密着インタビュー】仲代達矢・92歳、異色の反戦劇を再々演「これが引退の芝居だと思ってもいないし、思いたくもないんです」 役者一筋73年の思い
週刊ポスト
品川区にある碑文谷一家本部。ドアの側に掲示スペースがある
有名ヤクザ組織が再び“義憤文”「ストーカーを撲滅する覚悟」張り出した理由を直撃すると… 半年前には「闇バイト強盗に断固たる処置」で話題に
NEWSポストセブン
現在は5人がそれぞれの道を歩んでいる(撮影/小澤正朗)
《再集結で再注目》CHA-CHAが男性アイドル史に残した“もうひとつの伝説”「お笑いができるアイドル」の先駆者だった
NEWSポストセブン
『THE SECOND』総合演出の日置祐貴氏(撮影/山口京和)
【漫才賞レースTHE SECOND】第3回大会はフジテレビ問題の逆境で「開催中止の可能性もゼロではないと思っていた」 番組の総合演出が語る苦悩と番組への思い
NEWSポストセブン
永野芽郁の不倫騒動の行方は…
《『キャスター』打ち上げ、永野芽郁が参加》写真と動画撮影NGの厳戒態勢 田中圭との不倫騒動のなかで“決め込んだ覚悟”見せる
NEWSポストセブン
電撃の芸能界引退を発表した西内まりや(時事通信)
《西内まりやが電撃引退》身内にトラブルが発覚…モデルを務める姉のSNSに“不穏な異変”「一緒に映っている写真が…」
NEWSポストセブン
入院された上皇さまの付き添いをする美智子さま(2024年3月、長野県軽井沢町。撮影/JMPA)
美智子さま、入院された上皇さまのために連日300分近い長時間の付き添い 並大抵ではない“支える”という一念、雅子さまへと受け継がれる“一途な愛”
女性セブン
交際が伝えられていた元乃木坂46・白石麻衣(32)とtimelesz・菊池風磨(30)
《“結婚は5年封印”受け入れる献身》白石麻衣、菊池風磨の自宅マンションに「黒ずくめ変装」の通い愛、「子供好き」な本人が胸に秘めた思い
NEWSポストセブン
母の日に家族写真を公開した大谷翔平(写真/共同通信社)
《長女誕生から1か月》大谷翔平夫人・真美子さん、“伝説の家政婦”タサン志麻さんの食事・育児メソッドに傾倒 長女のお披露目は夏のオールスターゲームか 
女性セブン