厚生労働省が、これまで最長1年半だった育児休業を2年に延長することを検討し、年内にも結論が出る見通しだ。長い休暇から復帰すると、大なり小なり社内の状況は変化しているものだが、育児休暇を取ったら社内の環境が激変してしまった場合、どこに訴えれば良いのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
半年間の育児休暇を取りました。職場復帰すると、それまでのプロジェクトから外されて、どうでもよい仕事に就かされ、同僚の態度もよそよそしいのが悲しいです。ボーナスも半額以下でした。この現状をどこに訴えればよいですか。今の社会において育児休暇を取ることは悪いことなのでしょうか。
【回答】
育児・介護休業法は、労働者が育児や介護のために休業・休暇を取りやすくして、職業生活と家庭生活を両立させることを目的としていますが、第10条で「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と定めています。
また、第22条では育児休業後の就業が円滑に行なわれるように、事業主に対し、労働者の配置や雇用管理、職業能力の開発及び向上等に関し、必要な措置を講ずる努力義務も課しています。そのため多くの場合は、育休前の職場復帰がなされます。
あなたの場合、職場復帰後に仕事の中身が変わったとのことですが、業務内容を決定するのは事業者ですから、事業者が必要を認めて新たな仕事を指示することは可能です。ただし、変更の必要もないのに職種や仕事の内容変更は、育休が原因と推定され、その結果、給与や手当が減れば不利益扱いとなります。
そうなると育休を躊躇させることになりかねません。このような業務命令は無効であり、減額分の賃金の請求もできます。なお、配置転換の必要があっても、労働者の同意がなく一方的に減給をともなう降級や降格は、別に人事権濫用の問題になります。
ところで、賞与が半額以下になったとのことですが、半年間休業したのですから、ノーワークノーペイの原則からは当該半年間分に対応する賞与が減額されるのは、やむを得ないと思います。しかし、職場の冷たい雰囲気は、事業者が従業員に育休への理解を深めるよう改善すべきことです。
会社の育休への対応に不満がある場合には、都道府県の労働局長の助言を求めることができ、そのことで事業者は労働者を不利益扱いできません。労働基準監督署に相談することをお勧めします。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年9月30日号