ライフ

飛行機の気圧差でも発症する脳脊髄液減少症に有効な治療法

 脳は、頭蓋骨に満たされた脳脊髄液の中に浮いた状態で存在している。このため、身体が反転したり、逆立ちしても、脳はほぼ同じ状態を保つことができる。ところが、脳脊髄液が何らかの原因で減少すると脳は重力の影響を受け、下方に下がる。そのため、脳の表面の血管や神経が引っ張られて頭痛などの痛みが起こる。これが脳脊髄液減少症だ。

 立ったり、座ったりして頭に重力がかかると激しい頭痛が起こり、とても立っていられない。しかし、横になると痛みが軽くなるのが典型的な症状だ。

 日本医科大学武蔵小杉病院脳神経外科の喜多村孝幸教授に話を聞いた。

「脳脊髄液が漏れる原因はさまざまです。交通事故によるむち打ち症やラグビーなど激しくぶつかるスポーツのほか、日常の軽度の打撲や転倒、マッサージやカイロプラクティックの施術中にねじられ、押されることで脳脊髄液が漏れたり、飛行機の気圧差で漏れ、着陸後に立てなくなる方もいます。患者の約30%は特発性(原因不明)で、脳や脊髄を覆う硬膜の脆弱性が指摘されています」

 脳脊髄液減少症は、診断が難しかったが、ガイドラインの制定により、多くの医療機関で診断が可能になった。問診では、起立時と横臥(おうが)時では頭痛に変化があるかという典型的症状の有無を確認。その際、起立時の頭痛が3時間程度耐えられるかどうかが診断のポイントになる。交通事故後の頭痛や不定愁訴(しゅうそ)は頸椎(けいつい)損傷が原因でも脳脊髄液減少症と同じような症状が出ることもあり、見極めが肝心だ。

 脳脊髄液が漏れると頭の中の静脈、脳や脊髄の表面を覆っている硬膜がうっ血する。このうっ血でめまいや不定愁訴などの症状が出ることもある。そこでMRIやRI(脳槽シンチグラフィー)、CT(ミエログラフィー)検査などの画像検査で、脳脊髄液が漏れていないか、どこから漏れているかなどを調べる。脳脊髄液が漏れていても漏れが少ない場合は、1か月程度安静にしていれば、約80%漏れが止まるといわれている。

「自然に脳脊髄液が漏れている場所が癒着しない場合は、ブラッドパッチ治療をします。MRIなどの検査で、硬膜の外側に水が漏れている箇所が画像でわかります。漏れた場所に、外から患者の血液を注射すると、そこで血液が固まります」(喜多村教授)

 患者本人の静脈血を20~50ミリリットル採取し、硬膜外針という器具で硬膜と背骨の間にあるスペース(硬膜外腔)に注入する。注入された血液の成分がノリの役割を果たし、髄液が漏れている場所を塞ぐ。

 大人の場合、2、3回のブラッドパッチ治療で、約75%が治癒し、15歳以下の子供では、1~2回で90%以上が治る。本人の血液を利用するため、副作用も少ない。脳脊髄液減少症に対するブラッドパッチ治療は、2016年4月から保険適応になっている。

■取材・構成/岩城レイ子

※週刊ポスト2016年10月14・21日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン