「ひとつは、各地に散らばっていたグループ会社を集約する目的です。そして、もうひとつは当時の通勤ラッシュ時の混雑がとても激しかったことを踏まえて、自社グループの社員だけでもラッシュとは逆側の電車で通勤するようにしたことで混雑の緩和を狙ったことです。そして、3つ目の理由は、路線の中心で西武鉄道の2大幹線である新宿線と池袋線の交点にある所沢に本社があれば、沿線でトラブルが発生しても迅速に駆け付けられるという理由がありました」(西武広報部)
西武の本社移転は30年以上前にまで遡る。本社屋も古くなってきているが、移転の話は出ていないという。
西武と京急の本社移転は時代背景が異なるので同様に論じることは難しい。しかし、もう一社、近年になって東京から本社を移転させた関東の大手私鉄がある。
それが、2013(平成25)年に墨田区押上から千葉県市川市の京成八幡駅に移転した京成電鉄(京成)だ。京成広報部は、移転の経緯をこう説明する。
「押上にあった本社は1967年に竣工し、築40年近くになります。老朽化が進んでいましたし、スカイツリーが建設されるなど周辺には商業施設も増えるなど状況も大きく変化しています。そうした状況の変化を踏まえて、本社を移転させました。そして跡地を有効活用するべく、商業施設をつくることにしたのです」(京成広報部)
鉄道会社は鉄道だけで稼いでいるわけではない。沿線に付随するホテル、スーパーマーケットなどの売上も大きい。
企業にとって本社屋は必要不可欠だが、いくら本社を立派にしても鉄道会社の場合は売上に直結しない。都心に本社を構えるよりも、その場所にホテルや百貨店などをつくる方がグループ全体の売上も伸ばせるし、沿線も活性化する。さらに、沿線のブランドイメージ向上にも寄与する。
鉄道会社が東京から移転する背景には、都心一等地の不動産を活用して売上を伸ばすといった意図が含まれている。
近年、人口減少といった社会的背景もあって鉄道会社は鉄道事業本体よりも付随する事業に力を入れる機運が高まっている。
そうした事情も、関東私鉄の脱東京の流れを後押ししているといえるだろう。