ライフ

米軍の空襲を免れた「神保町古書店街伝説」の真偽

空襲被害から免れた古書店街の一角(写真:石川光陽)

 東京都千代田区・神田神保町は176店が軒を並べ、1000万冊もの本が集まっている世界一の古書店街だ。その賑わいは、太平洋戦争末期、米軍の空襲に遭わなかったために戦後も存続した。

 それに関して司馬遼太郎が『街道をゆく』の中で、〈エリセーエフ教授はマックアーサー将軍に進言して、神田神保町を目標から除外するよう忠告したといわれている〉と書いている。

 セルゲイ・エリセーエフとは、明治末期に東京帝国大学国文科に留学して夏目漱石の門人となり、太平洋戦争時はハーバード大学で教鞭を執っていた著名なロシア人の日本学者である。果たして司馬の書く「言い伝え」は事実なのか。

 エリセーエフの逸話と同様に、今日まで真偽の議論に決着がついていないのが「ウォーナー伝説」だ。京都など多くの文化財が集まる地域が空襲を受けなかったのは、岡倉天心らの薫陶を受けたアメリカ人美術史家ラングドン・ウォーナーの功績だという説だ。

 彼は寺社を中心に文化財のリストを作成し、「空爆すべきではない」と軍に進言したといわれ、戦後、日本政府から叙勲された。しかし、後に「占領政策を円滑に進めるための作られた美談だ」などの異論も出た。

 それらの「伝説」「言い伝え」を検証したのが、10月29日~11月4日神保町シアター、11月5日~11月13日東京都写真美術館ホールにて公開予定のドキュメンタリー映画『ウォーナーの謎のリスト』(金高謙二監督)だ。

 日米を中心とする関係者30人余りへのインタビューと、アメリカ国立公文書館などに残された資料をもとに本作は真相を探っていく。

 その中で、戦争末期、日本の文化財の保護について検討する米軍の委員会に、ウォーナーとエリセーエフが一緒に参加していた新事実が明かされていく。これまで2人の「伝説」は別々の文脈で語られてきたが、この新事実が示す“真実”とは一体何なのか──。

 日本の活字文化の中心・神保町の古書店街の謎を追う必見のドキュメンタリーである。

※週刊ポスト2016年10月28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

中国でライブをおこなった歌手・BENI(Instagramより)
《歌手・BENI(39)の中国公演が無事に開催されたワケ》浜崎あゆみ、大槻マキ…中国側の“日本のエンタメ弾圧”相次ぐなかでなぜ「地域によって違いがある」
NEWSポストセブン
渡邊渚アナのエッセイ連載『ひたむきに咲く』
「世界から『日本は男性の性欲に甘い国』と言われている」 渡邊渚さんが「日本で多発する性的搾取」について思うこと
NEWSポストセブン
 チャリティー上映会に天皇皇后両陛下の長女・愛子さまが出席された(2025年11月27日、撮影/JMPA)
《板垣李光人と同級生トークも》愛子さま、アニメ映画『ペリリュー』上映会に グレーのセットアップでメンズライクコーデで魅せた
NEWSポストセブン
リ・グァンホ容疑者
《拷問動画で主犯格逮捕》“闇バイト”をした韓国の大学生が拷問でショック死「電気ショックや殴打」「全身がアザだらけで真っ黒に」…リ・グァンホ容疑者の“壮絶犯罪手口”
NEWSポストセブン
“ミヤコレ”の愛称で親しまれる都プロにスキャンダル報道(gettyimages)
《顔を伏せて恥ずかしそうに…》“コーチの股間タッチ”報道で謝罪の都玲華(21)、「サバい〜」SNSに投稿していた親密ショット…「両親を悲しませることはできない」原点に立ち返る“親子二人三脚の日々”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「山健組組長がヒットマンに」「ケーキ片手に発砲」「ラーメン店店主銃撃」公判がまったく進まない“重大事件の現在”《山口組分裂抗争終結後に残された謎》
NEWSポストセブン
ガーリーなファッションに注目が集まっている秋篠宮妃の紀子さま(時事通信フォト)
《ただの女性アナファッションではない》紀子さま「アラ還でもハート柄」の“技あり”ガーリースーツの着こなし、若き日は“ナマズの婚約指輪”のオーダーしたオシャレ上級者
NEWSポストセブン
財務省の「隠された不祥事リスト」を入手(時事通信フォト)
《スクープ公開》財務省「隠された不祥事リスト」入手 過去1年の間にも警察から遺失物を詐取しようとした大阪税関職員、神戸税関の職員はアワビを“密漁”、500万円貸付け受け「利益供与」で処分
週刊ポスト
世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン