国内

子供たちが泣きながら走る「スポ根幼児園」に入園希望者殺到

園舎屋上のトラックを全力疾走する年中組 撮影/小笠原亜人矛

 運動会は年3回。朝のお迎えバスが到着する先は園舎でなくグラウンド──そんな“スポ根幼児園”が、入園キャンセル待ちが列をなすほどの人気だ。熱血指導の先生に食らいつき、泣きながら走る園児たち。幼い子供を相手にしたスパルタ教育の現場をジャーナリストの広野真嗣氏が取材した。

 * * *
「せいの、9しゅう!」

「ちゃんと全員が声を出さないと終わらないよ。遊んでいるんじゃないんだよ」

 東京都世田谷区八幡山。明治大学ラグビー部に隣接したグラウンドに、若い先生の叱咤を受けながら走る子供たちの息遣いが聞こえる。1周150mのコースを、約70人の5歳児たち(年長組)が4列縦隊を組み、裸足で駆けている。

 息遣いに嗚咽が混じることも、この学年ではもう稀になってくるという。“スポ根幼児園”の1日はこうして始まる。

 正式名は「バディスポーツ幼児園」。1981年に鈴木威・園長(66歳)が設立した「認可外保育施設」だ。園児4人からスタートし、現在は都内4か所、神奈川3か所で開園。総勢1700人が通うマンモス幼児園となった。小学生などを対象にしたスポーツクラブも運営する。幼児園はどこもキャンセル待ち状態だ。

 バディでは6月、10月、11月と運動会が年に3回ある。年長組の徒競走は300m、組体操は10人ピラミッド(4段)に挑む。ほかにポートボール大会(6月)、スキー合宿(1月)、サッカー大会(2月)など競技会が目白押しだ。

 最大の舞台は卒園式当日の「最後の授業」。課題は三点倒立、逆上がり、跳び箱6段の3種目で、全員が成功するまで終わらない。卒園できないのだ。

 跳び箱はタイミングが難しい。最後の1人まで何度でも挑戦。「がんばー!」の大声援の中、真剣勝負の園児が跳び箱に向かうシーンはスポ根そのものだ。

 なぜここまでやるのかと問うと、鈴木園長の答えは明快だった。

「今の子供は自分に厳しいことをやらないから、中高生の部活だって続かない。スポーツは自分の力で乗り越えなければ技は身につかないし、誰かに代わってもらうこともできない。『卒園できない』と言われれば、子供も努力せざるを得ないでしょう。追い込まれる体験が必要なんです。ただ秘訣があって、『絶対やれ』と要求する内容は『やれば必ずできる』ことだけ。そうして取り組んで『やればできる』という体験ができる」

【PROFILE】広野真嗣(ひろの・しんじ)/1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。神戸新聞記者を経て、猪瀬直樹事務所スタッフ。2015年10月より、フリーランスのジャーナリストとして独立。

※SAPIO2016年11月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン