「いいものを着て出かける、特別な場所。日本橋に勤めていた父と落ち合って、おもちゃ売り場で買い物して、屋上の遊園地で遊んで、食堂でお子様ランチを食べる。今から思えばそんなにうまいもんじゃあなかったけれど、あの時はそれがいちばんのごちそうでした」(真保さん)

 そんなみんなの幸せと憧れの場所だったデパートはやがて若者の流行の発信地へと進化してゆく。例えば1980年代に大流行したサンリオショップ。もともと中学生以下がターゲットだったサンリオに大人もハマるようになったのは三越新宿店と東急東横店への出店がきっかけ。DCブランドの流行もデパートからだった。その時青春時代を過ごした坂本幸子さん(仮名・42才)が振り返る。

「群馬出身の私にとって東京のデパートの品揃えと、お客さんの垢抜け感、店員さんのオーラが違うんです。地元のデパートには絶対に出店しない『コム・デ・ギャルソン』を、一張羅を着て伊勢丹新宿本店に買いに行った時のあの緊張は忘れられません」

 とっておきのおしゃれをして、背伸びをしながら楽しむハレの場所。そんな特別感は、バブル期にピークを迎える。1991年に西田ひかる(44才)主演のドラマ『デパート!夏物語』が人気を博し、ピークを過ぎた翌年以降も1992年に宮沢りえ(43才)主演の『東京エレベーターガール』、1994年に『デパート!夏物語』の続編『デパート!秋物語』と、立て続けにデパートを舞台にしたドラマが作られた。

 富山出身で『買い物とわたし~お伊勢丹より愛をこめて~』の著者・山内マリコさん(35才)はこう話す。

「大和というデパートで祖父母に『スコッチハウス』を買ってもらった時がいちばんテンション上がりました。その後、東京に出てきてからは伊勢丹に行くように。丁寧な接客にきれいな包み紙を見るとやっぱりうれしい。理屈じゃなく、ワクワクしちゃうんです」

 それは江戸時代、庶民の間で、一生に一度は「お伊勢詣り」といわれた伊勢神宮のような存在。一度は行ってみたいキラキラしたパワースポットに見えた。

 2020年の五輪開催地に名乗りをあげた東京が世界にアピールした「お・も・て・な・し」。すべてのお客様が買った商品を包み、紙袋に入れ、雨の日には雨よけカバーまでかけてくれるのは、世界中探しても日本だけ。そしてこの包み紙や紙袋すらステータスになる。前出の坂本さんも言う。

「田舎に帰る時に伊勢丹の紙袋でおみやげを渡すとすごく喜ばれるんです。中身は同じ“とらや”でも駅ビルの袋の時とは、明らかに両親のありがたがる感じが違うんです。それはもう、笑っちゃうくらい」

※女性セブン2016年11月3日号

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