女性セブンのアラ還名物記者“オバ記者”こと野原広子、世の中の理不尽に物申す! 今回は、病院に関するお話です。
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病院が何の予告もなく閉じる。そんな体験をした。「私がここで患者さんを診るのは、今日で最後なんです」──。気まずそうな女医の言葉の意味がすぐに理解できなかった私も、事情がわかるにつれて、「ンなバカな!」と大きな声を出していた。
この春、引っ越しをした私は、近所のかかりつけ病院を探していた。55才を過ぎたころから朝、心臓に叩き起こされるようになり、あわてて血圧を測ると180/100。
最近は心臓のあたりに筋肉痛のような痛みもある。いよいよ覚悟を決めて、高血圧の薬をのんだほうがいいかも…。
で、重い腰をやっとあげて、駅の近くのごく一般的なクリニックに目星をつけた。ひと月前のことだ。ドアを開けると、受付嬢も、年輩の看護師さんも感じがいい。そして何より院長であるM女医がいい。
40がらみで美人。スパスパと物を言うのも医者らしいし、「血圧のデータがない人に、降圧剤は処方できません」という生真面目さを見せつつ、「私は失敗しませんので。エヘッ」と首をすくめたりする。「じゃあ、次の診察までにすることを整理してみようか」と、ざっくばらんさも気に入った。
その半月後が冒頭のシーンよ。「ぶっちゃけた話をすると、ここのオーナーが一昨日の深夜、『病院を閉鎖するので、診察は明後日までにしてください』とメールしてきて、私は解雇らしいの」と言う。
聞けば、医師免許がなくても病院は開業できて、この病院も経営コンサルタントがオーナーだそう。
「患者数? それなりにはね。でもまあ、薬の処方とか医師としてできることとできないことがあるのよ」
そういえば、M医師は初診の私に、降圧剤を処方しなかった。それが正しいのかどうかはわからない。だけどよ。
「突然、閉めたら困る患者さんもいるじゃない?」と言うと、「それなの!」とM医師は語気を強めた。
「仮にもここは人様の命を預かる病院よ。経営不振で病院を閉めるのは仕方ないけど、こんなひどいやり方はないですよ。『患者さんのカルテは?』と聞くと、『こちらで対応します』って、不入りのスナックを閉店するかのようなあっさりした口ぶりなの」
いや、スナックだって客のボトルを残したまま、閉店はしないだろうに。
こうなると、医師と患者ではない。気の合う女同士だ。ひとしきり話した後でM医師は、「でね。私の目から見て、ここはいいと思う」と、あらかじめ用意していた私の次の病院候補と、1回分のカルテを「次の先生に見せてね」と渡してくれた。
あれから1週間たつけれど、病院のサイトには、閉鎖の「へ」の字もなく、休診だらけの「お知らせ」のみ。こんな輩(やから)に、「職業的良心ってもんがないのかい」と叫んでみても「最初からない」と返り討ちにあうのがオチ。ああ、イヤな渡世だな~。
※女性セブン2016年11月10日号