そんな脚本を得た女優たちはノリノリで、まさに全員がハマリ役のよう。成海璃子さんはズルズル不倫を引きずるドロ沼タイプ、佐藤仁美さんは女性同士で最も嫌われる悪知恵が働くタイプ、水野美紀さんは明るいけど空気が読めず空回りする哀れなタイプが完璧にフィット。あきれた顔、ため息をつく仕草、「チッ」という舌打ち、怒って食べ物をかけ合う姿……どれも生き生きとしていて、「こういう女性いるいる」と思わせてくれます。
さらに感心したのは、10人の女性が登場する難解さを解消するために、彼女たちが出入りするカフェの店員を説明係にしていること。めまぐるしく変わる女性たちの相関図をカフェ店員3人のセリフで整理しつつ、「店員の1人が店長と不倫している」という遊び心も添えられています。
バカリズムさんの連ドラ挑戦は、まだ2作目。しかもデビュー作『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)は、明快な1話完結型のフォーマットだったため、連続性のある作品や原作モノは初めてであり、その事実からも才能のほどがうかがえます。芸人としてのバカリズムさんが「天才」であることはすでに有名でしたが、当作で脚本家としても「天才」と呼ばれるスタートラインに立ったのかもしれません。
本人は「脚本ではなく長いコントを書いている」と謙遜していますが、各局のドラマ班にとって、人間のかわいらしさと悪意を切り取れるバカリズムさんは貴重な存在。脚本家の高齢化が叫ばれる中、40歳という若さも魅力だけに、今後もオファーは続くでしょう。
今後ドラマは、10人の女性がどんな決意を固め、風松吉に迫っていくのか? 風松吉は殺されるのか? など、笑いの中に少しのサスペンスも絡めて、予想ができない結末に向かっていきます。また、名物の「愛人同士が怒りに任せて飲食物をぶっかけ合う」シーンはどうなるのか? これまで、水、カフェオレ、カルーアミルク、あんかけ焼きそば……と徐々に濃度が高まっているだけに、不倫の行方とともに要注目です。
数えきれないほどの不倫騒動に揺れた2016年の芸能シーンをバカリズムさんはどんなオチで締めくくるのでしょうか。天才が見せる強烈なラストに期待しています。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。