社会状況の変化により「家族」というもののあり方も変わり、籍を入れることなく同棲するカップルは今や珍しくない。そのいったパートナーが亡くなってしまい、遺骨を保管している場合、法的に問題はないのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
ある女性と70歳を過ぎて知り合い、互いに身寄りもなかったので一緒に住むようになりました。ところが同居して1年後に女性が亡くなり、墓を建てるお金もないため、遺骨は今も私が保管しているのですが、問題は婚姻していないこと。法的に他人の私が彼女の遺骨を保管しているのは問題がありますか。
【回答】
遺骨を丁重に扱っていれば、女性の遺族が権利主張する場合を除いて心配は不要です。刑法では遺骨を損傷すると3年以下の懲役に処せられます。そのようなことがなければ、刑事問題は起きません。
女性の遺族が遺骨の引き渡しを要求する場合ですが、死者の遺骨は誰のものかという問題があります。いろいろな考えがあるのですが、位牌などと同様に供養をするために必要な祭祀財産であると解するのが通説です。この祭祀財産は相続財産ではないので、相続人が当然に所有権を主張することはできません。祭祀財産の承継という特別な法理で、処理されることになります。
民法では、祭祀財産を守っていた人が亡くなったときには、その後継者を相続人とはせず、故人が承継させることを指定した者が承継します。指定がないときには、慣習によって定めることになりますが、指定もなく慣習もないときには、家庭裁判所が決めます。旧民法の戸主の制度が否定された今日、長男が当然のように承継者という慣習は認められません。
遺骨やその他の祭祀財産の帰属が争いになった事件では、家庭裁判所は親族関係の遠近ではなく、故人が生きていれば誰を祭祀の承継者として指定したのだろうかという観点から判断します。そこで生前共同生活を営むなど、深い愛情を持っていたと目される人物を指定することが大半ですが、墓や先祖の祭祀の維持の意欲や資力を判断要素とする例もあります。
あなたは、身寄りのない同士で老老介護をして見取ったのですから、女性もあなたに死後の法要や菩提の弔いを期待していたのでしょう。
仮に女性の親族が遺骨の引き取りを求めてきても、あなたが認めたくなければ、家庭裁判所の判断を仰げばよろしいと思います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年11月18日号