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末期癌の医師・僧侶が語る覚鑁「密厳院発露懺悔」の解釈

医師・僧侶の田中雅博氏

 2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している医師・僧侶の田中雅博氏による『週刊ポスト』での連載「いのちの苦しみが消える古典のことば」から、覚鑁(かくばん)の「密厳院発露懺悔(みつごんいんほつろさんげ)の文」の解釈を田中氏が解説する。

 * * *
「平成の鬼平」と呼ばれた故・中坊公平(元日弁連会長)さんが、以前にテレビでこう言っていました。

「弁護士と医者と坊主の三つの職業は、他人の不幸で飯を食っているのだから、常に後ろめたさを感じている聖職でなければならない」

 中坊さんは弁護士一つだけでしたが、私は医者で坊主の二つだから、二倍の後ろめたさを感じていなければなりません。ショウペンハウエルは、

「仏教僧侶の僧院生活もまた同様で、純粋な僧侶は最高の栄誉に価する存在である。けれども殆ど大抵の場合僧衣は単なる仮装なのであり、この仮装のかげに本当の僧侶がひそんでいることは、恰も仮装舞踏会の場合におけるのと同じように稀なのである」

 と書いています。真言宗中興の祖といわれる興教大師覚鑁上人は、僧侶の自覚を促し自戒する文として『密厳院発露懺悔の文』を著しました。ここで「懺悔」は「さんげ」と読みます。懺悔の「懺」は忍を意味する梵語「ksham」の音写ですから「ざん」と濁って読むことはあり得ません。

「悔」は意訳で、悔やむという意味です。仏陀や菩薩や師の前で罪を告白し悔い改めることです。この懺悔の文に「名を比丘に仮って伽藍を穢し、形を沙門に比して信施を受く」とあります。「僧侶の恰好をして僧院を汚し、信者からお布施をもらっている」と、後にショウペンハウエルにも戒められた、当に“仮装舞踏会の譬喩の如く”なのです。

 私達の西明寺が所属する真言宗豊山派の総本山長谷寺では毎朝の勤行で密厳院発露懺悔の文を唱えます。長谷寺の舞台から外に向かって大きな声で合唱し、この自己反省から毎日が始まるのです。

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