アメリカ大統領選挙の結果は日本人も驚かせた。フリー・ライターの神田憲行氏が、「一発勝負の投票」の怖さを考える。
* * *
一発勝負の国民投票は怖いなあ。アメリカ地図がトランプ氏支持の赤色に塗り変えられていくのを見て、そう感じた人は多いのではないだろうか。正確には大統領選挙は直接選挙では無く得票数もクリントン氏の方が多いが、実質的にはそのような形になっている。イギリスのEU離脱のときと同じように、メディアはこれから起きる変化よりも、なぜこういう予想と違う事態になってしまったのか分析に熱心である。
私は選挙速報をネットで追いながら、この間読んだ論考にあった「投票箱革命」という言葉を思いだしていた。
それは雑誌「世界」11月号に掲載された佐藤史人・名古屋大学准教授の「憲法改正権力の活躍する『立憲主義』 ハンガリー基本法の世界」である。ハンガリーは2010年の国会選挙で中道右派のフィデス=ハンガリー市民同盟が連立する他党と3分の2を超える議席を得た。党首のオルバーン・ヴィクトルは、強い指導力を発揮するポピュリスト政治家として知られ、
《彼は、選挙の勝利を『投票箱における革命』と呼び、首相として自らの政策を矢継ぎ早に実行した》
それが13回に渡る憲法改正と新憲法制定だった。その内容は、
《ハンガリーの歴史的、民族的背景にこだわり、家族や共同体などの集団の役割を強調する》
婚姻を「男と女の結合」と定義し、胎児の生命が受胎のときから保護されるとも定めた。個人の自己決定権への国家の介入を強めた。またホームレス取り締まり政策が憲法裁判所より違憲判決が出されると、憲法にホームレス取り締まりの条項を組み込んだ。
こうした動きは欧州委員会から強い懸念が表明されたが、その後、ポーランドにも「ワルシャワにブタペシュトを」というスローガンを掲げる政党が政権を握った。ワルシャワはポーランドの首都、ブタペシュトはハンガリーの首都である。