ネットでは、かつて主流だったMT車(マニュアルトランスミッション=クラッチ操作を自分で行なう)の運転を高齢者に義務づけてはどうか、との意見もあったが、福田氏は「あながち的はずれではない」と指摘する。
「いまは市場がAT(オートマチックトランスミッション)車ばかりなので、高齢者の中にもAT限定の免許しか持っていない人はいるでしょうが、アクセルとブレーキを踏むだけの簡単な動作ゆえに、逆に判断ミスを起こしやすいことは確かです。
一方、MT車はクラッチを踏みながらギアチェンジをしなければなりませんし、いきなりアクセルを踏み過ぎると車がガクガクするノッキングを起こしたり、エンストで止まってしまうこともあります。極論をいえば、MT車を運転できるぐらいの技量がなければ“死ぬまで運転”は無理です」
また、高齢ドライバーの事故防止も目的に、各自動車メーカーからは自動ブレーキや運転アシスト機能など最新技術を詰め込んだクルマが多数登場しているが、現状ではあくまで「運転補助」に過ぎず、事故をゼロにさせるものではない。
「最終的には高齢者の自覚を促すしかありません。地方で足代わりに乗っている人にとっては、免許を返納したら生活が成り立たなくなると訴える人が多いでしょう。そうした人たちには、自家用車に代わる公共交通機関の運賃負担などの救済策が必要です。
しかし、自家用車を維持するだけでも相当な金額がかかりますし、近所のスーパーや病院などを行き来するだけなら、バスやタクシーを使ったほうが安く上がる場合もあります。取り返しのつかない事故を起こすリスクを高めるぐらいなら、きっぱりと年齢を決めて自らクルマを手放す選択肢を持つことも大切です」(福田氏)
高齢者の“クルマ離れ”は業界にとっては由々しき事態だが、かえって先進安全技術や地方の交通インフラ・サービスをより促進させる契機になるかもしれない。