ライフ

【書評】五輪ともビートルズとも無縁のもう一つの1960年代史

【書評】『60年代ポップ少年』/亀和田武・著/小学館/本体1650円+税

【著者】亀和田武(かめわだ・たけし)/1949年栃木県生まれ。作家、コラムニスト。成蹊大学文学部卒業。主な著書に『夢でまた逢えたら』(光文社)、『倶楽部亀坪』(扶桑社。坪内祐三との共著)、『どうして僕はきょうも競馬場に』(本の雑誌社)など。

 1960年代がほぼ自身の10代に重なる著者が、私的な体験を中心に〈教科書に書かれた1960年代史ではなく、もっと生々しくトリヴィアルな(注・些細なの意)60年代〉を描いたのが本書。

 著者は東京五輪に気分が高揚することはまったくなかった。ビートルズも嫌いだったし、周囲の同世代の多くも実は舟木一夫らの「青春歌謡」を口ずさみ、少数派だった洋楽ファンの一番人気はベンチャーズだった。誰もが五輪やビートルズに熱狂したというのは「歴史の捏造」だと書く。

 傍流だった著者が夢中になったのは、英米の原曲に意訳の詞を付けたポップ音楽(坂本九が歌ってヒットした『悲しき六十才』など)、黎明期のSF、全盛期のジャズ喫茶、「ガロ」や「COM」の漫画など。コアなSFファンの集まり、日々通った東京のジャズ喫茶の様子は、当時を直接知る者による貴重な史料と言える。

 そんな著者にとって〈もっとも心わくわくするポップな出来事が学生運動〉だった。浪人中、同い年の大学生が闘争で死亡したことに衝撃を受け、初めてデモに参加する。成蹊大学で新左翼の活動家となり、学内で体育会系や民青らと衝突を繰り返した。

 予備校にもベ平連に倣った「浪平連」、全学連をもじった「全浪連」があったこと、ベトナム反戦の米軍脱走兵をかくまうことに関わったこと、新宿中央郵便局を襲撃して中途半端な結果に終わってしまったこと、そして同じ活動家だった美少女と恋愛したことなどが語られる。

 そこには東大安田講堂の攻防など「歴史的な事件」は登場しないが、通常の60年代クロニクルからは欠落しがちなリアルで等身大の60年代史が描かれ、面白く読める。

※SAPIO2016年12月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン