◆銅像は日本人に愛された証し
そもそも『金色夜叉』は、1897年(明治30年)から読売新聞で連載され、当時から非常に人気が高かった作品だ。「前編」「中編」「後編」「続金色夜叉」「続続金色夜叉」「新続金色夜叉」と6編まで続き、書籍も大ベストセラーになった。作者の尾崎紅葉が執筆中に35歳の若さで急逝したため未完に終わったが、昭和に入ってからも繰り返し舞台化・映画化されている。
風俗史家の下川耿史氏はこう話す。
「明治時代から日本にはびこり始めた拝金主義に対するアンチテーゼを描いた作品で、作中のシーンが銅像になったこと自体が、日本人に愛された証しと言えます。それを撤去しろとはいかがなものか」
また、こうした圧力は別の面からも問題がある。女性の人権を守れと言いながら、表現や言論の自由を弾圧しているに等しく、批判している人々にそうした自覚はあるのだろうか。
貫一お宮の像が「女性蔑視」に見える人には、『金色夜叉』の一読をぜひお勧めしたい。
【PROFILE】清水典之/しみず・みちゆき。1966年愛知県生まれ。大阪大学工学部造船学科卒業。1991年よりフリーランス。著書に『「脱・石油社会」日本は逆襲する』(光文社刊)。
※SAPIO2016年12月号