さて、件のバラドルたちの中で、唯一、真摯に歌手活動を続けているのが森口博子だ。2000年代に入っても、8枚のシングルと3枚のアルバムを出しているし、今年9月に発売された『ザ・ピーナッツ トリビュート・ソングス』でも、森口は『大阪の女』で参加している。また、『アニー』をはじめとするミュージカル出演や、ジャズクラブでのライブも行っていて、今年2月、老舗のジャズクラブ『銀座Swing』に出演した際も、大人の佇まいと歌声で多くの観客を魅了した。
その森口が11月16日、新曲をリリースした。11月19日から全国15館で限定2週間、イベント上映される『機動戦士ガンダム ORIGIN IV』の主題歌『宇宙(そら)の彼方で』を16日にリリース。そのミュージックビデオが『GYAO!映像デイリーランキング』で1位を獲得したのである。
森口とガンダムの関係は深く、長い。1985年、森口のデビュー曲が『機動戦士ガンダム』の主題歌、『水の星へ愛をこめて』だった。
「その後も、20代、30代、40代と節目節目でガンダムを歌わせていただいているんです」と言うが、91年に大ヒットし、『NHK紅白歌合戦』に出場するきっかけにもなった『ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~』までは泣かず飛ばずで、「事務所からリストラ宣告をされた」こともあったそうだ。
それから数年後、赤文字系雑誌の美容ページで、森口の“人生折れ線グラフ”と髪型の変遷を見た記憶がある。「グラフが下降しっぱなしだった頃は、ずっと三つ編みにして、帽子をかぶって、なんとか多くのみなさんに顔を覚えていただこうと必死だった」と森口は振り返る。
果たして、「またガンダムを歌いたいなぁ」と思っていた今年、ガンダムの製作会社で主題歌を誰に歌わせるかという会議が行われ、その内の一人が森口の名前を出したところ、「満場一致で決まったと聞いて涙が出ました」と森口は目を潤ませた。
それは森口のファンの総意でもあったそうで、「ファンのみなさんの多くがTwitterやブログなどで願ってくださっていたことが叶ったんです」と、またさらに目を潤ませた。
歌手活動の一方で、タレントとしてバラエティー番組に出演し、CMでは『命の母A』のキャラクターとして“更年期トーク”を繰り広げている森口博子は独身を貫き、今年48歳になった。
歌番組は相変わらず少ないし、CDも売れなくなって久しいが、地道に歌手活動を続け、新曲をリリースし、MVが話題になり、映像デイリーチャートで1位に…。これは森口にとって、大きな勲章になったことだろう。
間近で会うと、相変わらずスリムで美肌でチャーミングで「奇跡の48歳」と言っていい森口が伸びのある声で歌い上げる『宇宙の彼方で』は、ガンダムのファンや製作者を含めた人々、森口ファン、そして森口博子本人にとって、また忘れられない一曲になったに違いない。