国内

がん患者の家族 気の毒と思っても絶対に口に出さなかった

自らの闘病を綴った元新聞記者の高橋賢司さん(70才)と妻の多見さん(68才)

「ここは雪が降ると1mくらい積もるから、今のうちに庭も冬支度をしないといけないんだよね」

 北海道札幌市内の一戸建て。元朝日新聞記者の高橋賢司さんはそう言って、庭の家庭菜園から笑顔をのぞかせて記者を出迎えてくれた。ジャンパーを羽織って土いじりに精を出す高橋さんは、がん闘病中の患者にはまったく見えない。

 彼が告知されたのは現役の記者だった2011年5月のこと。当時64才で、すでに大腸がんはステージIV。肝転移があったが、全身に転移して取り除くことができない“末期がん”ではなく、治療可能な“進行がん”だった。

 大腸がんは早期なら治療も簡単で生存率も高いが、自覚症状がなく発見が難しい。国立がん研究センターの発表によると、ステージIの10年生存率は約97%だが、ステージIVは8%。

 医師は高橋さんに「手術がうまくいかなければ、余命2年」と宣告した。しかし彼は、5回の手術と3年間の抗がん剤治療を乗り越え、再発の不安は残るものの現在、目に見えるがんはなく、今年無事に古希を迎えた。その経験をリアルタイムに綴った記事『がんと生きる』(『朝日新聞北海道版』などで連載中)は告知を受けてわずか5か月後にスタートした。術後体力は戻らず体調はかんばしくなかったはずだろうし、未来が見えぬために気力もなかったことだろう。そんなときに、なぜ記事を書こうと思ったのか。高橋さんに問うと、穏やかな表情で言う。

「会社の同僚から勧められました。最初は、まるで死にゆく者のメッセージじゃないかと思って、ちょっと嫌でした。特に当初は先なんて見えないし、現実を受け入れるので精一杯で、書くなんてとても…」

 迷う高橋さんを後押ししたのは、隣で夫を見つめる2才下の妻・多見さん(68才)。

「でも私は、お父さんにしかできない仕事だと思ったの。お父さんは私や2人の娘という家族がいるけれど、家族がいない人や相談相手がなく困っている人もいる。記事を通してそういう人たちの力になってくれたらいいな、って思ったの。ずっと記者をやってきたから、一生でいちばんいい仕事になってほしいと思って、すぐに賛成したんです」

 高橋さんは記者生活の大半を道内で送ってきた。60才で定年を迎えた後は、会社の再雇用制度を利用して、北海道・岩見沢支局に赴く。小さな支局なので、記者は1人だけ。多見さんを札幌の自宅に残しての勤務だった。

「当時は北海道犬の愛犬モモと暮らしていて、どこに取材に行くにも一緒でね。『犬と取材する記者だ』って岩見沢では有名でした。仕事一筋で、検診なんて、会社の定期健診の血液検査やレントゲンしか受けていなかった。だから、医師から『大きさからいって5~10年前から発症していた』と告げられたときは、ショックでした」

 日本の大腸がん検診率は男性で41.4%、女性で34.1%。さらに、過去1年、通常の健康診断すら受けていない人は男性は27.8%、女性は37.1%にものぼる。

 医師から5~10年前からがんがあったと聞いて、高橋さんは、「なぜ一度も内視鏡検査を受けなかったのか」と、悔いた。

関連キーワード

トピックス

遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト