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愛する人の死を手助けし「人殺し」と罵られた女性の告白

ラモナ・マネイロ(左)とラモン・サンペドロ

 10日間に満たないアメリカ滞在はジャーナリストの宮下洋一氏にとって強烈な体験だった。癌によって一度は安楽死を考えた女性が、医師の説得によって治療を続け、16年後の現在も生きているという事実──。

 安楽死を根本から否定する医師と患者に接し、宮下氏は混乱していた。そこで考える。これまでは安楽死が合法及び一部容認の国のケースを取材してきた。が、これからは安楽死を認めない国々に足を運んでみよう、と。次なる舞台は、宮下氏が長年、慣れ親しんできたスペインだった。宮下氏がレポートする。

 * * *
 スペインで安楽死は認められていない。背景には、生命倫理に保守的なカトリック教会が社会的影響力を持つという宗教事情が関係していると思う。また、ヨーロッパでは珍しく血縁が強固だ。安楽死への志向と家族観は相関関係にある。大病を背負っても家族からのサポートがあれば、安楽死を望まない、という意見もあるほどだ。

 9月末、私はスペイン北西部ガリシアの町、サンティアゴ・デ・コンポステラ(以下、サンティアゴ)にいた。マドリードから飛行機に乗ること、およそ1時間。空港から市内までの道のりには、「サンティアゴの巡礼」を行う数えきれない老若男女がピッケルをつきながら、歩いていた。

 市内からタクシーで40分、森林と岩山で形成される同地の景色を楽しみながら目的地ボイロに着いた。指定されたのは「プルペリア」と呼ばれるガリシア風たこレストランだった。地元住民で賑わう店内に入って、私はぐるりと体を一周させた。

「オーラ、ヨーイ!」

 誰かが、ガリシア地方のアクセントで「どーも」と言い、私の名前を「ヨーイ」と勝手に名付けていた。後ろを振り向くと、白髪まじりの黒いロングヘアーを束ねた女性が、にっこりと笑って私を見ていた。彼女の名前は、ラモナ・マネイロ。ボイロの隣町で生まれた55歳の女性だ。「たこでも食べて待っていてちょうだい。今、すっごく忙しいのよ、ヨーイ」と、まるで昔から友達であるかのように言う。

 この愛想の良い彼女だが、実は長年、公の場で口にしてはならない「ある秘密」を胸に閉じ込めて生きてきた。巷では、彼女を知らない者などいない。

 なぜなら、ラモナは、「元殺人者」だからである……。

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