◆「完全安楽死マニュアル」を実行
麻痺した手をつねりながら、話しかけるラモナ。気づかない振りをしながら、不意に「痛い」と驚かすサンペドロ。2人は、ブランデーやワインを飲んだり、「吸えば死ねる」と皮肉り、ウィンストンのたばこを昼夜ふかしたりしながら、恋人生活を送った。
だが、いつしかラモナは、サンペドロの家族から敬遠されていった。
実は、この事件を語る上では、サンペドロに密着していたテレビ記者で、彼の自叙伝出版の手伝いをしていた女性(映画では弁護士役で登場)も外せない。この女性もサンペドロに心酔しており、彼を毎日見舞うラモナに対し、嫉妬心を抱えていたという。
「彼女が私を悪者に仕立てあげたの。彼女は彼に恋をしていた。映画では、彼女と彼のキスシーンが多くて驚いたわ。でも、本当の恋人は私よ!」
ところで、「生かす」ことに生き甲斐を感じていたラモナはなぜ、「死を助ける」ことに姿勢を変えたのか。
「重度の障害を抱えていて、彼のように死にたくても死ねない人を助けることは、間違っていないと思うようになったのよ。妊娠中絶だって合法化されたことで恩恵を受けた人は多いはず。法を利用するかしないかは、それぞれが決めればいいことだけど、安楽死に関しては法律が存在しないのよ……」
だから、私が彼が死ぬのを助けようと思ったそう聞こえた。ラモナは、安楽死を遂げさせるため、彼を家族から引き離した。最期の2か月、二人はボイロでともに過ごした。ここには、ラモナ側の身内が頻繁に顔を出し、サンペドロ最期の誕生日では、杯を傾けて祝いもした。
1998年1月12日午後7時を回った頃だった。サンペドロが枕元で囁いた。
「オシーニャ(ラモナの別の愛称)、今夜、旅立とうと思う」