最大のメリットは、「タイムリミット」の延長だ。t-PA薬は4時間半を超えると使用できず、発見の遅れや転送などでリミットを超えると、患者や家族は治療を諦めるしかなかったが、血管内治療は発症から8時間以内に開始すれば効果が見込める。時間的猶予が約2倍になったのだ。

 この画期的な治療法は今年、イギリスの著名な医学誌『ランセット』に論文が掲載され、世界的にも効果が証明された。すでに米国では脳梗塞の標準治療となり、治療ガイドラインもある。

 現在、日本にはこの治療法が実施できる専門医が約1100人いる。カテーテルを用いた繊細な技術がいるため、その数は決して多くないが、国内でも治療効果の高さは実績がある。

 植田氏の勤務する聖マリアンナ医科大学東横病院脳卒中センター(神奈川県川崎市)では、専門医5人を中心に、12人の医師による医療チームを作り、24時間365日体制で患者に備える。植田氏がいう。

「年間400人の患者が搬送され、その内10~15%が血管内治療を受けています。多くの患者は何の後遺症もなく、スムーズに回復して退院します」

 1例を紹介しよう。川崎市に住む68歳男性は自宅で朝食中、左上下肢の麻痺と言語障害が突然生じ、2時間後に聖マリアンナ医大に搬送された。

「MRIで脳梗塞と診断され、ただちにt-PA薬を投与したが症状の改善はありませんでした。そこで血管内治療を行なって血栓を回収した。すると左半身の麻痺はすぐ回復し、2週間後には元気に自宅に帰りました」(同前)

※週刊ポスト2016年12月16日号

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