楠ノ瀬直樹は、実践派であり、理論派であったが、思考の根っこはとてもシンプルで、感情表現はまるで子供だった。釣りが三度の飯よりも好きな子供がそのまま大きくなったような、外見はコワモテというか、どこの国の何者だ?という異様なおっさん。けれども、心は本当にイノセント。
天才の定義のひとつには「純粋無垢」が不可欠だ、と彼と出会って以来、そう思っている。
私の知っている天才3人には共通項がある。楠ノ瀬直樹も近藤裕も伊藤祐靖も、みんな少年時代は不良だった。ただの不良ではなく、町でその名を知らぬ人がいない系のやんちゃ小僧たち。それは、あまりにイノセントで、自分の中から沸きあがる気持ちを周りのために殺すことができなかったからだと思う。思春期、青春期のどこかで、「そんな社会の中で自分が生きていくにはこれしかない!」と腹を決め、それぞれに突き進んだのが釣りであり、料理であり、戦闘の世界だったのだろう。
料理や戦闘はともかく、釣りはブームが不況の深化で完全に消え、子供たちの世界から遠くなった印象がある。でも、楠ノ瀬直樹の記憶は残せる。ネットで語ってくれ。彼を知る人は、もっと彼を言葉にしてくれ。