日本麻酔科学会が発行している『麻酔のしおり』(2015年版)に掲載されている死亡率のデータを見ると、手術する疾患以外の全身疾患を有しない人に比べて、高血圧や貧血などの軽度の全身疾患を抱えている人や、糖尿病や人工透析を必要とする人などでは死亡率が高くなることがわかる。また緊急手術だとやはり死亡率が上がる傾向が読み取れる。
医療行為である以上、麻酔のリスクもゼロではない。ただ、そのリスクが人によって大きく異なることも認識しておくべきだ。
「リスクがある以上、麻酔をしないに越したことはありません。それでも長時間の手術、腹腔鏡・胸腔鏡手術では全身麻酔が必須となります。大切なのは麻酔科医の術前診察時にこれまでにかかった病気や飲んでいる薬、生活習慣などをきちんと申告することです。
全身麻酔のリスクは、健康状態を悪化させる生活習慣とも密接に関わっています。具体的には喫煙の期間と量、アルコールの摂取量、運動習慣などが影響します。特にタバコについては、術前に8週間禁煙をすれば、術後の肺合併症(肺炎など)が少なくなるエビデンスもあります」(前出・讃岐医師)
リスクがたしかに存在する以上、「安全だ」という話しかしない専門家の言葉を信用するわけにはいかないが、“全身麻酔はとにかく危険”という大掴みな認識になってしまうことも、自らの体を守ることにはつながらない。
※週刊ポスト2017年1月1・6日号