──オタク経済圏は数十億円の市場だと期待された時期もありましたが、そう楽観的でもなくなっているのでしょうか?
井上:お金に余裕がなくなっているからなのか、使うときはものすごく慎重です。今回の那珂ちゃんの場合、予約開始直後は反応が悪かったですね。予約終了時間が近づくにつれ、しり上がりによくなって持ち直しました。今は、人気キャラクターのフィギュアであっても、締め切り間際に買う人が多い。最後の最後まで悩んで、最後の最後で買うと決める。その様子をみて俺も買おうと決心する。この売れ方は、最近の傾向だと思います。
──とはいえ、オタク部屋といえばお気に入りキャラクターのフィギュアが飾るのが定番という印象ですが、フィギュアを飾らなくなっているのでしょうか?
井上:最近はキャラクター人気の入れ替わりがすごく激しいので、お客さんからみると、そのたびに1万円超するフィギュアは買っていられないという事情もあると思います。製造販売する側からみると、人気が出たキャラクターを開発しても、商品化できたころにはブームが終わっていることが多いため、割にあわない商売になってしまいました。
ひとつのフィギュアを開発するのに半年以上かかります。でも、それではキャラクター人気の旬を逃してしまう。大手メーカーの場合、たとえばアニメ化するなどの事前情報をもとに、アニメ制作そのものに出資するなどして、世間には公表していないフィギュアを先行して開発するんです。資本力があるからできることですが、ヒットするかどうかは運次第です。
──大手といえども厳しいのでは、中小メーカーはどうやって生き残るのでしょう?
井上:うちのような小さいメーカーとしては、なるべくヒット作品を連発して開発費を回収して利益を出さないとならない。ところが、最近はヒットしても利幅が小さい。以前は、フィギュアの製造販売といえばハイリスクハイリターンな賭けで、一度あたるとしばらくやっていける利益が出ました。でも今は、ハイリスクローリターンな賭けになってしまいました。
──フィギュア業界が生き残る方法はあるのでしょうか?
井上:すごく小さいフィギュアを高額で売るなど、ありえない勝負が必要かもしれません。フィギュアといえば実物の6分の1が普通だったんですが、いまはひと回り小さい8分の1ぐらいが中心です。小さくなっているのは、最も高い金型ではなく樹脂やゴム型でつくれるからです。業界最大手は2頭身や3頭身の小さいフィギュアを主力商品にしています。スケールフィギュアといわれる通常のフィギュアは、収益が悪すぎて、もはやメインではないです。
──海外で売るという選択肢は活路にならないでしょうか?
井上:販路を持っていれば可能性はあります。でも、小さいメーカーは問屋が存在しない、または高額な中間マージンが発生するので難しい。フィギュア業界の場合、頑張っているところはあるし、他社と比べると儲かっているといえるところもあるかもしれないですが、その会社の前年度と比べると業績がよくないところが多いです。