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【書評】SF的要素を取り入れ「家族」の概念を覆す

 年末年始はじっくりと本を読む良いチャンスだが、本読みの達人が選ぶ書は何か。翻訳家の鴻巣友季子氏は、純文学の潮流を読み解く書として『橋を渡る』(吉田修一・著/文藝春秋/1800円+税)を推す。鴻巣氏が同書を解説する。

 * * *
 もはやリアリズム小説では現実に太刀打ちできないせいか、遺伝子操作やクローン、AI(人工知能)といったSF的な要素を純文学作品にも取り入れる潮流が、ここしばらく世界的に続いており、日本でもこの二年ほどは「ラッシュ」というべき状況だ。それらの多くは、技術革新を輝かしい進歩として描くのではなく、「原発事故」「核戦争」「パンデミック(大感染)」など、人類滅亡の危機に瀕して考案されたとする設定が多い。

 たとえば、川上弘美の神話SF『大きな鳥にさらわれないよう』に描かれる未来には、国という境界や概念をなくした原始的な社会があり、人はおもに動物からクローン技術で生産されている。また、奥泉光のSFジャズ・ミステリ『ビビビ・ビ・バップ』は、人工的なアバター(分身)が人に成り代わったAI世界を描く。

 吉田修一の『橋を渡る』は「歴史を変える」ことについて書かれた傑作。四部のうち第三部までは、日常のありふれた一齣、一齣を丹念に描く連作短編集だが、第四部でいきなり、SF的な仕掛けによって未来の視点が導入される。

 この七十年後の世界には、人間と高性能ロボットのほか、「サイン」と呼ばれる人工的な生き物が……。そこは機械化され、安全で、清潔で、合理的で、人にやさしく、同時にとてつもなく残酷な管理社会である。

 諸作品に共通するのは、セックスと婚姻と生殖をひと続きの線上で考えるのをやめ、人工技術で人間の生体活動を補綴し操作している点だ。「家族」「配偶者」「親子」という概念が根底から覆される。日本の首相が旧来の家族主義への回帰を訴えるのをよそに、生命のあり方をめぐる選択肢は今後もゆるやかに広がり続けるだろう。

『橋を渡る』のSF的未来も、無数のふつうの人々が無数の小さな決断を下し、無数の道の中から一つを選んで「橋を渡った」結果、つまり、ありふれた一歩の集積によって出現したはずだ。遠く見える未来も現在と地続きだということを実感させる一冊である。

※週刊ポスト2017年1月1・6日号

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