歌を断ったことで、女優に懸ける思いが増した。岡田自身が忘れられない作品として挙げるのが、1982年公開の映画『あゝ野麦峠 新緑篇』。立ち居振る舞いだけで製糸工場の女工に見えることが要求される厳しい撮影現場だった。
「山本薩夫監督に『繭の匂いがするようにしてこいよ!』と怒鳴られ、あえて衣装を洗わず臭いままで撮影しました。工場での過酷な労働を再現するため、竹刀で体を叩かれたり、冬に浴衣1枚で水を掛けられたりしました。すごくいい経験だったと思います」
一皮剥けた岡田は1980年代、『スクール☆ウォーズ』『乳姉妹』など大映ドラマの看板女優として確固たる地位を築く。50代になった今も美貌は衰えず、一昨年の映画『恋』では40年ぶりに主演を務めるなど人気が再燃している。
「これからは、等身大の女性をもっと演じていきたいですね。歌ですか? 数年前、友達と2人で熱海の旅館に泊まった時、大広間にあったカラオケで自分の曲を大きな声で歌ったんですよ。そしたら翌日、女将さんに『奈々ちゃんの曲、全部知っているよ』といわれて。聴かれていたと思うと、恥ずかしい……。そんな感じですから、テレビではなおさら歌えないですね(笑い)」
◆岡田奈々(おかだ・なな):1959年生まれ、岐阜県出身。1974年にオーディション番組『あなたをスターに!』の第2回チャンピオンになり、翌1975年に『ひとりごと』で歌手デビュー。グリコのアーモンドチョコレートやポッキーのCMにも出演して人気アイドルとして活躍。20歳を過ぎて女優業に本腰を入れ、『戦国自衛隊』『あゝ野麦峠 新緑篇』『塀の中のプレイ・ボール』などの映画、ドラマなどに多数出演。2014年の映画『恋』は大きな話題を呼び、2016年に『海すずめ』が公開された。
撮影■渡辺達生
※週刊ポスト2017年1月1・6日号