日本の国のバランスシートの「負債の部」も確かに巨額だ。「公債(国債)」が884兆円。為替介入のために必要な資金など、政府が1年未満の短期の資金繰りのために発行する「政府短期証券」が約99兆円、それに民間銀行からの「借入金」(28.9兆円)や「公的年金預り金(年金積立金)」(113.7兆円)などを合わせた負債合計は約1172兆円となっている。
財務省はホームページで「道路や堤防は買い手がないから売却できない。年金積立金の運用寄託金は将来の年金給付のためのもので、国債の返済にはあてられない」と説明。
資産は処分できないものばかりで、負債のざっと1000兆円は丸ごと「国の借金」だと強調しているが、高橋氏は「政府の金融資産のうち特殊法人などへの出資金や貸付金は天下り先を民営化すれば回収できる」と反論している。このあたりが専門家の間で議論のポイントとなるようだ。
ここで素朴な疑問が浮かぶ。民間企業であれば、資産より負債の方が多い「債務超過」状態は倒産の危機と見られる。
かつて日本航空が経営破綻(会社更生法を申請)した時のバランスシート(2010年1月決算)は、資産9718億円に対して、負債2兆6852億円。差し引き1兆7134億円の債務超過だった。
日本の国家財政は政府の資産を全部売ったとしてもまだ500兆円近い借金が残り、完全な債務超過だ。それは破綻の危機ではないのか。高橋氏の反論は明快だ。
「ほとんどの国のバランスシートは債務超過状態です。それでも企業と違って破綻しないのは、政府には徴税権といういわば“見えない資産”があるからです。日本の場合、少なく見積もっても毎年30兆円の税収(国税)がある(2017年度は57.7兆円の見通し)。
徴税力のある国の徴税権を資産として評価する場合、われわれ専門家は税収の25倍と計算する。税収が年間30兆円なら750兆円、税収40兆円とすれば1000兆円の見えない資産があるわけで、それを加味すると日本は全く債務超過ではない」
住宅ローンでたとえれば、定年も寿命もないサラリーマン(何年先も安定した収入のある国)は、より大きなローン(負債)を抱えても大丈夫というロジックだ。
確かに、日本人ほど政府のいいなりに税金を真面目に払う国民は他にない。高橋氏の指摘のように「徴税権」を750兆円の資産として国のバランスシートに計上すれば、資産と負債の差額は260兆円のプラスになる。日本とギリシャの違いもここにある。
「徴税権の資産価値は政府がちゃんと税金を徴収できるかにかかっている。ギリシャは日本と違って政府の徴税力が低いと見られているから国債の金利がハネ上がって財政が破綻した」(高橋氏)
5年前のギリシャ危機の際、同国の国債(10年物)は約35%の金利をつけなければ買い手がつかなかったが、現在の日本の国債(10年物)の金利はほぼゼロ。これが徴税力という国の信用の差であるという説明だ
※週刊ポスト2017年1月13・20日号