1978年のテレビドラマ『白い巨塔』(フジテレビ)では田宮二郎扮する野心家の外科医・財前と対立する内科医・里見を演じている。
「医者のことは結構勉強しました。それで気づいたのは、外科と内科の違いです。内科の名医ってみんな、『どういう痛みか』を自分から患者に聞かないんですよね。患者の話をよく聞いて、向こうから自然と言わせる。『言わせないで言わせる』んですよ。ですから、外科医は決断ですが、内科医は忍耐。果断に動くことはない。そこは意識しました。
田宮さんとの最初の撮影は薬の投与をめぐって論争をする場面からでしたが、彼はもう震えながら激昂して演じていた。僕は『最初からこんなテンションで演じていたら後で大変なことになる。最初はもうちょっと抑えていかないと』と思って、途中で撮影を止めたんです。そういう演技ってテレビはいいと思って使っちゃうんですよ。でも、後で編集で繋ぐとそこが出っ張る。
彼は怒ってセットの裏に行ってしまいました。最終的には僕が謝りましたが、彼もそれだけ怒るくらい一生懸命でした。それが面白かったんだと思います。田宮さんがああいう風に面白くなければ、ドラマ全体も面白くはなりませんから。ある意味では、僕の役はどうでもいい。
彼は最終回が放送になる直前に自死されてしまいます。最後に握手するシーンがあるのですが、リハーサルから手が痛くなるくらいに握ってきました。彼が亡くなった時、いかに本気で演じていたかを思いました。あの痛みは今も覚えています。もっとちゃんと付き合えばよかったと思いましたが、あの時は付き合いようもありませんでした」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年1月13・20日号